歌枕直美 友の会

うたまくら草子
歌枕直美の心から語りたい
vol.85 中東弘

 
 
日本で最も古い神社の一つとされ、古事記ともゆかりの深い、河内一之宮 枚岡神社の中東宮司にお話を伺いました。
 
 

微生物と共生
 
歌枕直美(以下、歌枕):大変ご無沙汰しております。
 
中東弘(以下、中東):お元気そうで何よりです。
 
歌枕:毎年12月23日は「笑い神事」を行われていますが、笑いはどのような作用があるのですか。
 
中東:体を調和させ、活性化し、免疫力を高めてくれます。そして、酸素が全身に行き渡り、遥か昔から体の中で共生してきたミトコンドリアがエネルギーを出してくれます。
 
歌枕:ミトコンドリアですか。
 
中東:我々が動いて、働いて酸素を吸い、酸素を送るとミトコンドリアは働き出します。また人間の体の中にはミトコンドリアをはじめとして、多くの微生物と共生し、腸内細菌だけでも百兆個以上いるといわれています。そして我々の心が穏やかになると、微生物は良い働きをしてくれます。
 
歌枕:無数の微生物が存在しているのですね。
 
中東:ミトコンドリアをはじめてとして微生物にも生物誕生からの膨大な遺伝子が組み込まれています。
 
歌枕:イライラしたり、心穏やかでなかったりすると、体の中の微生物まで影響が出るのですね。
 
中東:「有難いな、嬉しいな」と思っていると、どんどん微生物が良い働きをしてくれます。最近では科学でも証明されています。
 
歌枕:目に見えない世界が、だんだんと科学と結びついてきたのですね。
 
中東:どんなお説教をするよりも、只々、無心に笑っていると、こんな気持ちいいことはないと感じます。閉ざされた心の岩戸も開きます。そのため、笑いは世界中で脚光を浴びています。
 
歌枕:確かに笑うと気が満ちてきて、幸せを感じますね。
 
中東:人の体は科学では解明できない無限の不思議な能力を持っています。目に見える世界だけではなく、人の心の動きも大きく作用します。そして、科学はだんだんと宗教に近づき、弘法大師や伝教大師が感性で言っていたことが科学によって本当であったことが証明されてまいりました。
 
歌枕:科学と宗教が近づくのですね。
 
中東:そして、我々は感謝をすることによって祖先から受け継いでいる良い遺伝子がスイッチオンとなり、幸せを与えてくれるようになります。
 
 
次世代へつなぐ
 
歌枕:さまざまなアイデアで枚岡神社を活性化されていますが、「巫女研修」もその一つですね。
 
中東:以前に勤めていた春日大社と枚岡神社では、様相は雲泥の差がありました。これは何とかしないといけないと思い「巫女研修」を始めました。
 
歌枕:どのようなことをするのでしょうか。
 
中東:まずは日本の心である神道のお話をしたり、礼儀作法を稽古します。また、「笑い」の意味合いを伝え、実際に20分間笑い、祝詞をあげ、瞑想し、お掃除したりと一日研修していただくと、「こんな良い体験をしたことがない、もっとやりたい」とお声をいただきます。
 
歌枕:心が洗われますね。
 
中東:それではということで、中級では枚岡神社発祥の地である神津嶽に登って大祓詞を三度奏上し、瞑想した後、30分笑い、下山して簡単な神楽を習って、奉納します。上級では滝に打たれ、最上級では巫女のライセンスをお渡し、いつでもお手伝いに来て復習ができるようにしました。これまで全国から1800名もの女性が研修されています。
 
歌枕:どんどんと輪が広まっていますね。
 
中東:21世紀は女性の時代です。子供たちに日本の良い文化を伝えていくには巫女研修で女性に良いものを習得していただき、教育にあたっていただきたいと考えました。
 
歌枕:日本の未来が良くなりますね。
 
中東:近頃では家の中に神棚や仏壇がない家が多くなっています。
 
歌枕:確かにそうですね。
 
中東:神棚や仏壇が家にあれば、一日一回は手を合わせ、神様とご先祖様に感謝する姿を親が子供に伝えることができます。そして子供は親の仕草や言葉をまねて、自然に手を合わせるようになり、神様やご先祖様を感じて感謝の心が育ち、家庭の中で道徳教育をすることができます。
 
歌枕:日本の素晴らしい文化を忘れないためにも、家庭の中での教育も不可欠なことです。
 
中東:また唯物主義で目に見えるものしか信じない人が多くなっています。そしてあれも欲しい、これも欲しいと我欲が山のよう広がり、世のため人のためといった魂や心を磨くことを忘れている人が多くなってます。
 
歌枕:愚かなことです。
 
中東:日本人の先人の考えは、人は神様の分霊をいただいて、この世にやって来て、亡くなると神様の世界に帰っていく。亡くなる時には物もお金も持っていけません。その時にこの世に来た意味合い、心の世界・魂の世界がいかに大切かということに気付くのです。
 
歌枕:生き方の大切さがよく伝わります。
 
中東:内なる世界を磨き、どう生きるかということが非常に大切になってきます。
 
歌枕:唯物主義からの発想を変えていく必要がありますね。
 
中東:人間はお母さんのお腹から生まれてきますが、実は幼児の30%は、お母さんのお腹の中で言葉や音楽をすでに聞いたことがあり、知っているという子がいます。
 
歌枕:胎児教育が大切なのですね。
 
中東:だから胎児からの教育が必要で、良い音楽を聞かせたり、夫婦喧嘩しないで仲良く穏やかにするということが大事で、お腹の中の赤ちゃんはちゃんと知っているのです。そして、日本人はお腹の中にいる時から年齢を数え、生まれた時には満一歳となります。
 
歌枕:先人からの教えですね。
 
中東:そして赤ちゃんの何パーセントかは、今度はどのお母さんに生まれ、そしてこの現実の世界でどのような環境で修行して、魂を高めようかと選んで生まれてくる子がいるようなのです。
 
歌枕:勝手に生まれてきたわけではないのですね。
 
中東:このような話を信じないという人もいますが、この世は不思議で満ち満ちている世界なのです。
 
言霊の世界
 
歌枕:久しぶりに枚岡神社に来させていただいて、改めてここの空気が澄んでいると感じました。
 
中東:枚岡神社の創祀は皇紀前まで遡り、神日本磐余彦命(かむやまといわれひこのみこと・後の神武天皇)が建国を願って、天の岩戸を開いた天児屋根命を、生駒山の神津嶽にお祀りしたことに始まります。
 
歌枕:遥か昔から大切に守られてきた特別な場所なのですね
 
中東:また枚岡神社は「元春日」と呼ばれ、天児屋根命・比売御神の二神が春日山本宮の峰に影向せられ、春日神社に祀られました。
 
歌枕:日本の深い歴史がある土地で、古からの良い気を感じます。
 
中東:歌枕さんは日本の素晴らしい万葉集の世界を美しく表現されていますね。
 
歌枕:ありがとうございます。
 
中東:人の言葉には命があり、働きがあります。そして考えや言葉が波動となって伝わり、影響します。「念ずれば花開く」と言いますが、これは科学的にも証明されています。
 
歌枕:良い言葉を発するということは大切なことですね。
 
中東:言霊と言いますが、言葉には魂が宿ります。歌枕さんは古代の人々の言葉を言霊・音霊として発信するお役目があるのですね。きっと神様やご先祖様が喜んでおられることでしょう。
 
歌枕:万葉集と出会い、日本人としてブレない確固たるものを持てたと思います。
 
中東:先人が詠まれた日本の心でもあり、大和言葉の凝縮である万葉集は世界から称えられています。これを美しく表現され、多くの人々に伝える活動をされていることは非常に素晴らしいことです。
 
歌枕:来年は古事記の物語をテーマに公演させていただきます。このタイミングで中東宮司とお話させていただき、また以前にお話を伺わせていただいた時よりも響くものが多くありました。
 
中東:古事記は日本の文化の原点でもありますので、これからますます注目されてまいります。歌枕さんはこれを現代の形で表現され、言霊・音霊でもって人々を導いていけるでしょう。
 
歌枕:神様に導いていただいて、様々なご縁をいただき、今があるのだと日々感謝しています。やれることを精一杯やりたいと思います。
 
中東:今後の活躍を楽しみにしています。
 
歌枕:本日は貴重なお話をありがとうございました。
 
 

中東 弘(なかひがし ひろし)

枚岡神社宮司。昭和16年3月生

昭和35年出雲大社で神職の資格を習得。同年大山祇神社に奉職。昭和39年春日大社に転任。平成9年から18年まで同社権宮司を務める。社団法人南都楽所楽師として海外演奏多数。昭和天皇春日御親拝に際して和舞を御上覧。毎年の祭礼に大蔵流狂言を奉納。奈良薪御能にも出演。平成4年から20年まで、奈良県神社庁祭式講師。平成19年白屋八幡神社宮司。平成21年より現職。神社本庁参与。