歌枕直美 友の会

うたまくら草子
歌枕直美の心から語りたい
vol.71 田中康仁

 
大和三山に囲まれた地に在する奈良県立医科大学にお伺いし、整形外科教授 田中康仁先生にお話をお伺いいたしました。
 

整形外科    
 
歌枕直美(以下、歌枕):昨年の「第33回 日本整形外科学会基礎学術集会」では、前夜の晩餐会、学術集会の開会式にて演奏をさせていただきありがとうございました。大変光栄でした。
 
田中康仁:(以下、田中)こちらこそありがとうございました。皆さんを万葉の世界にいざなって下さり、大変好評でした。
 
歌枕:田中先生が整形外科医になろうと思われたきっかけは何でしょうか。
 
田中:奈良県立医大の整形外科は1965年に完全に切断してしまった指を全世界で初めてつないだ事で国際的にも有名で、国内だけではなく海外でも活躍できるのではないかと選びました。
 
歌枕:それから40年で変わってきましたか?
 
田中:時代に応じて、疾患形態が変わってくるので、医療も変わります。今は、超高年齢化で骨粗鬆症や変形性関節症の診療が多くなってきております。
 
歌枕:以前に「足の外科学会」も開催されていらっしゃいました。
 
田中:平城遷都1300百年祭の行われた2010年ですね。その節もご演奏頂きありがとうございました。日本では、かつてはぞうりや下駄での生活で、足の病が少なかったですが、時代の変化で日本人の足も外反母趾などの足首から先のトラブルが多くなり、足の外科が注目されてきております。 
 
歌枕:生活スタイルや食生活で、人の体が変わってきているのですね。
 
田中:はい。整形外科は、守備範囲が広い診療の為、日常生活をサポートできる診療、保存治療が多く必要とされています。様々な不調に対応できる多様性と専門性の両方が必要です。
 
歌枕:医科大学を出て医師になるのは、どのような道がありますか?
 
田中:医者は狭い世界で、パターンとしては、主に1、大学病院に残り学生指導と臨床研究、2、一般病院で勤務医として地域医療に貢献、3、研修病院で若い先生を指導、学会などで活躍、4、開業医の4つですね。
 
歌枕:そのように分かれるのですね。
田中:はい。若い時は、全体のことがわからず、外科というと手術治療などでスーパードクターを目指したい!世界へ出て行きたい!など考えますが、専門診療だけでなく、高齢者の保存治療、リハビリなども大事で、整形外科医がしっかりと地域包括ケアに関わるべきだと思っています。
 
人間育成
 
歌枕:私たちが医師にお世話になるのは弱っているときなので、精神的な面がとても重要だと思います。
 
田中:医師の精神的なサポートは大変重要なことと思います。最近の医学生は、偏差値が非常に高く優秀で勉強一筋、親からもましてや他人から叱られたことがない学生が多いように思います。
 
歌枕:優秀すぎるわけですか。
 
田中:そうですね。学力だけでは人間性が磨かれません。しかし、医師国家試験も大変で、どうしても偏ってしまいます。それで世の中に出て、患者さんの対応に頭を悩ませるという事態になります。
 
歌枕:なるほどやはりどの分野でも、若いうちに打たれておかないといけないですね。
田中:はい。痛い目にあっておかないと。(笑)
 
歌枕:田中先生は、そういうご経験があられますか?
 
田中:私は学生時代に、ラグビーをやっていて、そこで痛い目にあっていました。
 
歌枕:ラグビーですか。痛そうですね。(笑)
 
田中:ラグビーは、他のスポーツとチームプレーのあり方が違うんですね。私は現在整形外科の野球チームにも所属しておりますが、野球は打つにしろ、守るにしろ瞬間、瞬間は1対1のプレーになります。しかし、ラグビーは、人との距離が近く、自由度が高く、自己を犠牲にしてボールを生かすことが基本のスポーツですので、常に助けてくれる人を探しています。
歌枕:ラグビーは、大勢の選手がワァっと固まっていて、どのようなスポーツか良くわかりませんでしたが、お話をお伺いし興味がわいてきました。ラグビーの経験が、人間育成に役立ちますね。
 
田中:はい。ラグビーにはコミュニケーション能力が必要で、その経験が社会に出て生きてきます。
 
歌枕:とても重要な経験ですね。
 
田中:またラグビーは1チーム15人で行う競技ですが、そのポジションにはいろんな特徴があり、どんな人でも自分に合うポジションが見つけられ、チームの中で必ず活躍できる場面があります。そこが整形外科と似ています。
 
歌枕:整形外科医師は、ラグビーと共通して個性的な人の集まりですか?
 
田中:はい。全身の運動器を扱う診療科で、赤ちゃんから高齢者までを対象としておりますし、大きな領域としては脊椎疾患、関節疾患ならびに骨折などの外傷を診療しております奈良医大には、各分野の一流の専門医師が揃っています。
 
歌枕:素晴らしいですね。
 
田中:これからの時代は、多様性、可能性を広げることが大切です。若い時期に広げると、次が見えてきます。いかに社会で仕事しながら輝けるかが重要だと思います。
 
やまとぢから
 
歌枕:学会のキャッチコピー「知の結集~やまとぢから」を拝見した時に、田中先生の深い思いを感じ感動しました。
 
田中:やまとは日本でもあり、奈良でもあり、日本の知を結び奈良に結集して世界に強く発信したいという思いをこめて、「やまとぢから」としました。日本は、八百万の神の国。日本人は何でも受け入れ、そしてすべてのものに神が宿ると考える、それが日本人の心・やまとの力を知ってほしいと思います。
 
歌枕:藤原京(奈良県橿原市)は、日本の国が誕生したところ、そういう地にある奈良県立医科大学、その背景をもって学会を開催され「やまとぢから」のあり方が素晴らしいと思いました。
 
田中:奈良医大がそこまで頑張っているというのを、全国にわかってもらいたいですね。ただ学生もこの地の歴史をあまり知らないので、教育していかないといけないと思います。
 
歌枕:若い方に伝えていくことは重要なことですね。ところで田中先生は、いつから歴史に興味を持たれたのですか?
 
田中:他府県や海外からのゲストをお迎えした時に、奈良をご案内する様になって、だんだん深みを知り、それを伝えていきたいと思う様になりました。
 
歌枕:田中先生が、他府県や海外からの方をご案内されるとっておきの場所はありますか?
 
田中:はい。お天気であれば夜に神武天皇陵をご案内します。真っ暗な道を歩いて行くと遠くに鳥居が見えてきて、その上に北極星が見えます。天皇は、北極星のように安定した地位を築きたいと願い、大極殿も南面し北に建てたそうです。
 
歌枕:とても神聖な雰囲気でしょうね。奥が深いです。普通にはない素敵なナイトツアーですね。
 
田中:印象に残ると、また来たいと思っていただけます。歌枕さんが観光大使を務めてくださるここ橿原市は、関西空港からドアtoドア、バス一本一時間でお越し頂けます。「日本のはじまりの地へようこそ!」。歌枕さんの日本の古の心が心に染み入るような歌とともに、やまとぢからを感じていただきたいです。橿原、奈良、そして日本の為に益々ご活躍ください。
 
歌枕:ありがとうございます。本日は貴重なお話をありがとうございました。
 
 
 
 

田中 康仁(たなか やすひと)

奈良県立医科大学整形外科学教室・教授

足の病気や足の外科のエキスパートとして知られる日本のトップランナーであり、国内でも有数の症例数を誇る。その卓越した手術手技を学ぶため、全国各地から医師が集まり、研鑽を積む。