歌枕直美 友の会

うたまくら草子
歌枕直美の心から語りたい
vol.69 奥村彪生

伝承料理研究家の奥村彪生先生を、うたまくら茶論にお招きし、前号に続きお話をお伺い致しました。2018年度は奥村先生対談3回連載でお届け致します。
 

自然の力
 
歌枕直美(以下、歌枕):前号に続き、お世話になります。また今回の対談日が先日の地震の日で、急遽できなくなり申し訳有りませんでした。
 
奥村彪生(以下、奥村):先日の地震は大阪北部の方が大変でしたね。歌枕さんは、被害はありませんでしたか?
 
歌枕:はい。幸いにして、茶論も工房も大きな被害はありませんでした。奥村先生は、地震の経験はおありでしょうか?
 
奥村:まだ十歳になっていない頃、昭和二十一年の南海大地震にあいました。和歌山県の海南あたりが震源地の大きい地震でした。揺り返しも大きくて「これは津波が来る!」と、煎った大豆を持って高台へ逃げました。その途中、道から海が見えると、白波がいくつも重なるようにして寄せて来ているので、「きれいなー」と言って、「あほ!」と叱られました。(笑)
 
歌枕:ご幼少の頃から、美的な感覚をお持ちですね。(笑)
 
奥村:子供心に、怖さよりも美しい光景に見えました。普段も良く揺れていましたし、また来たなという感じで、地震にはなれていましたね。
 
歌枕:また、煎った豆を持って逃げるいう知恵に驚きました!
 
奥村:常備食の煎り大豆は大事なたんぱく源です。あと削り鰹も、なめてもなめてもなくならないし、あのうま味にほっとします。そして、たくさん唾液が出ますから水もいらず役に立ちます。最近は、備蓄するという考えがなくなってしまい、こういう災害があると困りますね。
 
歌枕:奥村先生は、東日本大震災の時は、お仕事で福島県にいらっしゃったそうですが、その時は大変だったのではないでしょうか。
 
奥村:はい。その時は、福島県にあるお惣菜の会社(スーパーヨークベニマルの子会社 ライフフーズ)の第一工場で指導をしていて、午後二時過ぎくらいに下からワッ!と突き上げる様に揺れて、窓や壁が割れ、急いでガスと水道を止めました。
 
歌枕:本当にご無事で何よりです。
 
奥村:少し落ち着いてから車でホテルに戻ったのですが、ロビーだけ自家発電で電気がついていて、その灯りをみてほっとしました。ロビーで一晩過ごしたのですが、その時にテレビで津波の映像が流れていて、人間がどんなに進化して自然を制覇したと思っても、自然の力には及ばない。予防していても、人間の考えを上回る予期せぬことが起こって苦しめると、つくづく思いました。
 
歌枕:どんなに進化しても、人間は勘違いをしてはいけないですね。
 
奥村:本当にその通りです。
 
不易流行(ふえきりゅうこう)
 
歌枕:日本一の売り上げを誇る福島のスーパーヨークベニマルでは、どのようなご指導をされていらっしゃいますか?
 
奥村:五十三年前から和総菜をてがけてメニューを開発し、地元の主婦を中心にパートの方に作り方を指導しています。ヒット商品を狙うのでなく、じわじわと売り上げが上がるロングセラー商品をいくつも手がけてきました。歌も一緒で、ヒット曲もいいけれど、長く愛される歌が末永く残っていきますね。
 
歌枕:普遍的な物ですね。
 
奥村:商売はあきられたら終わり、だから「あきない」と言います。(笑)お惣菜もその時の時代性を汲みながら、その時代に合うように新しい物にして伝えなければいけません。時代性を失った物(者)は、消えるんです。
 
歌枕:先生のご冗談!でましたね。(笑)
 
奥村:福島の震災の直後、炊き出しの依頼を受けたのですが、その時、倉庫に残っている食材でメニューを作りました。円盤形のおにぎり二個、ふきの炊いたん、揚げた小じゃがいもの肉味噌和えを、お弁当にして届けました。会社の若い社員の皆さんや被災したご家族が、語り合いながらおだやかに笑みを浮かべ、おいしそうに食べる風景を思い浮かべて、手を真っ赤にしておにぎりを握り、おかずもすべて手作りをされました。私もホテルでそのお弁当をいただいたのですが、あの人らこんなに美味しいもんが作れるようになったのかと、感動しました。
 
歌枕:そういう時ほど、人の心がこもったお料理が、体にも心にも重要ですね。
 
奥村:はい。伝統は守るべき物ではありません。育てる物です。「不易流行」変わるべきものと変わらないもの。日本食で言うと、変わらない物は「生食(刺身)」。それは日本の森林が生み出す水と寒流と暖流の交わり、四季の移り変わりが明瞭、だから魚が美味しい、日本の食文化の根幹に「生食」があります。
 
歌枕:日本は気候、自然に恵まれた豊かな国ですね。他にはありませんね。
 
奥村:歌枕さんの曲『伊予の誘庭』を良く歌わせていただいています。この曲は心に染みます。「辞(こと)思ほし」(古の大王の歌)その重さを知らないと次代に伝えていけない、そして“臣の木も生ひ継ぎにけり 鳴く鳥の声も変わらず” 「不易流行(ふえきりゅうこう)」変わるべきものと変わらないものです。
 
歌枕:奥村先生、以心伝心です。私もこの数ヶ月、『伊予の誘庭』が自分の中でのテーマになっていました。
 
奥村:空海の詩にもつながりますね。
 
新しい文化
 
歌枕:十一月に堺市にある堺能楽会館で仁徳天皇にまつわるコンサートを行います。
 
奥村:堺はもともと日本最初の自治都市であり、千利休が生まれ育ったところであり、醤油や酒の醸造所もあり、商業が栄え、かつ茶の湯を中心とする文化都市でもありました。明治維新以降、工業都市に変わって労働者の町になっていきましたね。そうすると遊びが少なくなり、文化が消えて行きます。遊び(金銭的、時間的、精神的(心)な余裕)が文化を生み育てるのです。
 
歌枕:そうですね。私の子供の頃は、堺というと臨海工業地域のイメージが強くありました。
 
奥村:昔に戻ることはできないし、世の中、前へ前へと進んでいるのですが、その時にもロマンを経済優先会社は忘れてはいけないと思います。政治は現実だけど、それだけでなく、文化的活動を通じて市民に夢を与えてほしいですし、そうすると町も明るく活気づくと思います。私は、いつもロマンを描き続けています。
 
歌枕:ロマンを、夢を持ち続ける、本当に重要なことですね。だから奥村先生にはファンが多くいらっしゃいます。本当に素晴らしいですね。
 
奥村:歌枕さんに堺で新しい文化を生み出すきっかけ役になっていただき、仁徳天皇にちなんで、雅でありかつ現代的な音楽を通して、堺に新しい風を送る文化の台風の目になってください。
 
歌枕:ありがとうございます。堺公演にむけて頑張ります。心強いお言葉をありがとうございました。次のうたまくら草子は七十回記念号となりますので、何かサプライズを考えたいと思っていますのでまたご協力をお願い致します。
 

奥村彪生(おくむら あやお)

日本で唯一の伝承料理研究家。飛鳥万葉時代から江戸、明治、大正ならびに昭和の戦後まで、全国のお雑煮やまんが「サザエさん」などの様々な料理を文献記録に基づいて再現。世界の民族の伝統料理に詳しく、2009年めんの研究で学術博士(美作大学・大学院)。奥村彪生料理スタジオ「道楽亭」主宰。

■社会活動...2000年度和歌山県民文化賞受賞。2010年5月第1回 辻静雄食文化賞受賞。

      NHK「きょうの料理」、「関西ラジオワイド 旬の味」などに出演。

■著書...『日本めん食文化の一三〇〇年』(農文協)(農文協)

    『日本料理とは何か』(農文協)ほか