歌枕直美 友の会

うたまくら草子
歌枕直美の心から語りたい
vol.68 奥村彪生

伝承料理研究家の奥村彪生先生に3度目のご登場をお願いし、奥村彪生料理スタジオにお邪魔しお話をお伺い致しました。
 

■幸運な出会い
 
歌枕直美(以下、歌枕):こんにちは。いつもお料理のみでなく生き方、考え方、精神性を学ばせていただいている奥村先生に今回から三回に亘りお話をお伺いしたいと思いお邪魔しました。どうぞよろしくお願いします。
 
奥村彪生(以下、奥村):こちらこそ、よろしくお願いします。
 
歌枕:二十年前交野市にある酒蔵での催しでの時に、奥村先生とはじめてご一緒させていただき、先生のお話、そしてお人柄に感動しました。
 
奥村:もう二十年になりますか。私は、その時に歌枕さんの歌をはじめて聴かせていただいて、素敵だなと思い、僕も歌おう…(笑)と、思いました。そしていつもCDを聴いています。
歌枕:それからしばらくして、琵琶湖ホールでの和歌劇「額田姫王」公演にお越し下さり、またうたまくら茶論へお越しくださったりと、親しくしていただき本当に感謝しております。
 
奥村:歌枕さんは、私の万葉歌の師匠ですよ。(笑)各地での講演の最後には、歌枕さんの万葉歌を歌わせて頂いています。
 
歌枕:ありがとうございます。奥村先生はNHKの「日めくり万葉集」などにもご出演されていらっしゃいますが、万葉集との出会いは何でしょうか?
 
奥村:万葉集との出会いは、食物史学者の篠田統(おさむ)先生のところに通い勉強していた時に、犬養孝さんと知り合ったころです。平城京跡の継続的発掘調査二十周年記念として一九七九年十一月三日NHKが「よみがえる平城京」の番組で、当時の料理を再現してみないかと声をかけられた時、万葉集や奈良時代の木簡、正倉院の古文書、中国の文献、古代の日記などを、読み下しながら、食べ物について書かれているところを紐解いていき、メニューをつくる。録画の日は、包丁一本もって出かけましたよ。(笑)
 
歌枕:木簡や古文書を、どうやって解読されるのでしょうか。また料理と歴史がつなげられたのは何がきっかけでしたか?
 
奥村:料理を学び始めた頃 土井勝料理学校の下働きをしている三年間の中で、いろんな状況を見て考えました。「切ります。煮ますで、ええんかな?」なぜこうするのかを、科学的に教える人が少ない。食の文化、歴史の裏づけをしていくことも必要と考えていた時、篠田統先生と出会い食物史研究会で「箸の文化」について講演しないかと声をかけていただきました。
 
歌枕:篠田先生との出会いが、大きな転機になられたのですね。
 
奥村:講演が終わったあと、篠田先生は聞いていた学者たちに「お前らは、畳の上の水練や。実際に泳いでるやつは強いの。」と言われました。国立民族学博物館の石毛直道さんも来られて、先生と三人で飲みに行き、石毛先生からは「日本の歴史をしっかり勉強しなさい。」と言っていただきました。それ以来休みの日に篠田邸に通うようになり、昼間はお酒を飲みながら蘊蓄を聞き、帰りは、古い料理書や公家や僧侶の日記を解読する宿題が出されました。
 
歌枕:それをすぐに読み解くことができたのですか?
 
奥村:江戸時代の料理書は「へのへのもへの」にしか見えないので、読めないと言うと、「こんなんミミズがほうてんねんから、読める字を拾ってつなげ」と言われ、悪戦苦闘しながら百冊くらい解読、料理も再現し、学者さんたちに試食してもらいました。地道に努力したことは、総て頭に入っています。
 
歌枕:その経験が木簡や古文書の解読、古代食の再現につながるのですね。良き師匠に、教えを受けられ、展開されていったのですね。歴史的背景を語りながら、料理を作られるのは奥村先生しかいらっしゃらないですね。
 
奥村:理論と実技、両方持つことが大切だと思います。
 
■海外へ日本食の紹介
 
歌枕:今では海外でお寿司など日本料理が人気ですが、その発信に貢献されたとお伺いしています。
 
奥村:四十年前石毛さんが外務省の要請で日本の食文化を紹介するためにドイツ、オランダ、イタリア、フランスへ行かれる時に、同行させていただきました。すべて現地の食材で刺身、鮓、天ぷら、焼鳥、和え物をつくりました。
 
歌枕:反応はいかがでしたか?
 
奥村:刺身は日本料理を象徴する食べ物です。要するに生食です。しかし欧米には、この習慣がなく軽蔑されました。しかし、実際食べると美味しい!と言われました。その時、和食は世界性を持っていると直感しました。その時代が今なのです。
 
歌枕:日本人は、昔から刺身など生食文化があったのですね。
 
奥村:はい。日本列島は寒流と暖流に囲まれ、それぞれの地域で気候風土が異なるために、魚介の種類や旬が異なるのです。刺身は魚介の鮮度が重要ですが、切って塩だけで美味しく食べれます。料理という言葉は、食材を美しく切って器に美しく盛る意味です。これが日本料理の根幹です。日本で刺身が安心して食べられるのは水が安全で美味しいからです。その水で魚介を水洗いします。安全な水を生み出しているのは日本の豊かな森林(率70%)です。
 
歌枕:日本は海流にかこまれた国だから、いつも新鮮な美味しい魚が食べれるのですね。
 
奥村:日本人は魚介の美味しい時節を熟知しており、しめや、の輸送、急速冷凍の技術を開発しました。日本食の紹介を始めて四十年たって、外国の人達が生食の美味しさを知って、日本への旅行者も増えました。
 
歌枕:素晴らしい技術力。やはり日本は職人の国ですね。
 
奥村:以前、魚の活きしめ技術と血抜きの技術を、教えに行った時に、残酷だと言われましたね。(笑)
 
■個性、特性の活かし方
 
歌枕:奥村先生は、大学でご指導をされている時は、いかがでしたでしょうか。
 
奥村:教えることは科学的(数学的)で、合理的(論理的)でないといけないと考えています。「一を習って十を知る、十よりかえる元の一に」は千利休の教えでとても科学的です。でも今は精神性(情緒的)を語るのみになってしまっています。
 
歌枕:そうですね。どうしても感覚的になりがちです。
 
奥村:そして学生は「私はこうしたい」という思いがないといけない。創作意欲が湧くように指導を行ってきました。基本は必要ですが、個人の個性、特性を伸ばすことが重要だと思っています。料理も同じです。アクも大事で、抜きすぎるとよくない。すべての材料には、個性と味がある。それを殺さず、ひとつにまとめていくことが大事です。
 
歌枕:料理も人も同じですね。相手の中にある魅力を能力を引き出し、導いていくことですね。
 
奥村:その通り、人の味、物の味こそ大切です。
 
歌枕:奥村先生の学ばれて来たポイント、勉強の仕方をお伺いし、勉強をしなければと思います。ご教授いただけることが、私の財産となっています。
 
奥村:ありがとうございます。
 
歌枕:今日も来させていただいて、とても充実した時間でした。また続いての対談よろしくお願いします。
 

奥村彪生(おくむら あやお)

日本で唯一の伝承料理研究家。飛鳥万葉時代から江戸、明治、大正ならびに昭和の戦後まで、全国のお雑煮やまんが「サザエさん」などの様々な料理を文献記録に基づいて再現。世界の民族の伝統料理に詳しく、2009年めんの研究で学術博士(美作大学・大学院)。奥村彪生料理スタジオ「道楽亭」主宰。

■社会活動...2000年度和歌山県民文化賞受賞。2010年5月第1回 辻静雄食文化賞受賞。

      NHK「きょうの料理」、「関西ラジオワイド 旬の味」などに出演。

■著書...『日本めん食文化の一三〇〇年』(農文協)(農文協)

    『日本料理とは何か』(農文協)ほか