歌枕直美 友の会

うたまくら草子
歌枕直美の心から語りたい
vol.66 中東 弘

日本でもっとも古い神社と言われている河内一の宮 枚岡神社の中東宮司にお話を伺いました。
 

■神職への道
 
歌枕直美(以下、歌枕):今年は枚岡神社御鎮座二千六百八十年記念の年でいらっしゃるとのこと、おめでとうございます。
 
中東弘宮司(以下、中東):ありがとうございます。カンヤマトイワレビコノミコト(後の神武天皇)が建国を願って、天の岩戸を開いた天児屋根命を、生駒山の神津嶽にお祀りされて、今年二千六百八十年を迎えました。
 
歌枕:宮司様は、幼少の頃から神職に関心を持たれていたのでしょうか?
 
中東:特にではありませんでしたが、母がお寺や神社へ行くのが好きで、夜中に参拝しても旅館に泊まらずお篭もりをし、易学を学んで、霊感と易学で人の導きをしていました。家には、神道、仏教、易学、漢方薬、その他特殊な本がたくさんありました。
 
歌枕:お母様の影響で神職の道に進まれたのでしょうか?
 
中東:そうですね。高校時代に進路を決める時に、母より宗教者になってほしいと言われました。神職か僧侶…。その時、単純に神社には鎮守の森があるので、お坊さんより神職の方がよいかなと思いました。(笑)
 
歌枕:その後、神職になるためにどのような勉強をされたのですか?
 
中東:國學院大学に行くために勉強していたところに父が亡くなり、母親に苦労をさせられないと思っていたところ、母の知り合いより出雲大社に一年行くと神職になれるということを聞きました。
 
歌枕出雲大社での勉強はいかがでしたか?
 
中東:毎朝晩一時間摂社で白衣をつけて座り、大祓詞を奏上していました。母より「サラリーマン的な神職は駄目だ、神の声が聞ける神職になりなさい。」と言われていたので、皆と違うことをし、来た以上は親の言うことを守らないといけないと一生懸命やっていました。あっという間の一年でした。
 
歌枕:素晴らしいお母様ですね。出雲大社での勉強を終えられてからはどうなされましたか?
 
中東:卒業したら就職で、しまなみ海道にある大三島を神地とした大山祇神社に四年間務め、二十二歳の時に春日大社に入りました。
 
歌枕:春日大社はいかがでしたでしょうか。
 
中東:春日大社に入ったら、たくさんの行事があり、雅楽や狂言、その他あらゆる文化がありました。歴代の宮司がいろんなことを復興され、それが勉強になりました。
 
歌枕:宮司様も何かなされましたか?
 
中東:はい。笙を吹かないかと言われ、稽古を重ねていくうちにいろんな行事があり、東大寺の落慶法要や、海外での演奏や舞、昭和天皇の前で舞わせてもらったり大変光栄なことでした。また、復興したものの一つに、禰宜座狂言というのがあって、禰宜衆が能や狂言を習得して、数々の祭礼に奉納していました。
 
歌枕:神職の皆様がなされるのは珍しいのではないですか?
 
中東:全国でも神職がやっているのは、春日大社だけですね。そのお陰で、だんだん腹から祝詞が読める様になってきました。(笑)
 
 
■お笑い神事
 
歌枕:枚岡神社へは、いついらっしゃいましたか?
 
中東:春日大社で四十二年務め、平成二十一年八月に枚岡へ参りました。
 
歌枕:枚岡神社には、お笑い神事があり宮司様が広めるためにご尽力されたとお伺いしています。
 
中東:はい。以前は新しい年を迎えるにあたって、職員と総代、総勢三十余名でやっていた神事ですが、こんなに素晴らしいことは一般参加型でやろうと考えました。
 
歌枕:お笑い神事の由来は何でしょうか?
 
中東:神話の「天の岩戸開き」からですね。素戔嗚尊が狼籍を働いて天照大神が御隠れになり、世の中に悪いことが起こります。それで天児屋根命が祝詞をあげ、天宇受売命に踊ってもらい、神々が笑いあっていると、天照大神がお出ましになられ、そこでもう元には戻らないでくださいと、岩戸に縄をはったことが注連縄の起源とされています。そのことにちなんで枚岡神社では、お正月の前に新しい注連縄を張って、皆でわらい合う「お笑い神事」を行っています。
 
歌枕:笑うことは大切ですね。心の浄化になると思います。
 
中東:その通りですね。赤ちゃんの笑いを「神笑」と言います。無心に笑うと、心の岩戸が開かれます。おもいきり大きな声で笑ってみてください。酸素がめぐって、だんだん目が輝いてきます。「お笑い神事」では、二十分間笑い続けます。
 
歌枕:二十分間おもいきり笑おうと思っても、難しいものですよね。お集りの皆様はいかがですか?
 
中東:感謝や喜びをイメージすると、笑うことができますね。参加型にしての一回目は百二十人くらい、二年目は五百人くらい、そして七年目には二千~三千人の方がお集りくださいました。皆、体の奥には、神様をもっているんです。心の岩戸を開くことは、日本の甦りのためにも必要なことです。
 
 
■日本の原点
 
歌枕:そうですね。あたりまえにある身近な物に感謝して、日々生きることを忘れていますね。
 
中東:はい。「土・水・空気・光」我々の生命を生かしてくれる不思議な力に神を感じて、尊敬・感謝をしてきました。どれがかけても生きて行けません。我々は自然の見えない働きに生かされています。先人は不可思議なその働きを神と称して感謝してきたので、八百万の神が生まれました。しかし今は、神仏に感謝することを忘れています。
 
歌枕:便利な世の中になり、見える物のみを追いかけていますね。
 
中東:見える世界、見えない世界がひとつになって、大宇宙の様に無限に広がっています。我々の身体の中の宇宙と外の宇宙はつながっています。
 
歌枕:それを知っている人と、知らない人ではまったく違いますね。
 
中東:中国は、長い歴史を持っていますが、数々の革命によって古い文化がとぎれとぎれになっています。日本に民族がやってきたのは、四万年前と言われています。ユーラシアの各地からいろんな文化を持った人たちが渡来し、その文化を共有して魂を磨き上げ、日本文明を築いてきました。
 
歌枕:神話の中には作られた神様のお話ではなく、日本の原点がありますね。
 
中東:はい。その中に真実があります。アインシュタインが「世界をリードするのは日本だ!」と言っていたのを実現するのは今。神話ができて千三百年、そろそろ日本人が目覚め、古事記や神話を通じて、日本の歴史を伝えていかなければなりません。今、日本の国は歴史の根底にある神話が教えられていないので、根なし草のようになっています。歌枕さんは音楽を通して、歴史の根底にある神話を広く多くの人に伝えられていることを嬉しく思います。今後とも、ご活躍をお祈りしています。
 
歌枕:ありがとうございます。本日は、貴重なお話をありがとうございました。
 
 

中東 弘 (なかひがし ひろし)

枚岡神社宮司。昭和163月生。昭和35年出雲大社で神職の資格を習得。同年大山祇神社に奉職。昭和39年春日大社に転任。平成9年から18年まで同社権宮司を務める。社団法人南都楽所楽師として海外演奏多数。昭和天皇春日御親拝に際して和舞を御上覧。毎年の祭礼に大蔵流狂言を奉納。奈良薪御能にも出演。平成4年から20年まで、奈良県神社庁祭式講師。平成19年白屋八幡神社宮司。平成21年より現職。神社本庁参与。