歌枕直美 友の会

うたまくら草子
歌枕直美の心から語りたい
vol.63 打田文博

静岡県・遠江国一宮 小國神社での和歌劇「古事記うたものがたり~人の世の巻~」5月公演の翌日、打田宮司様に貴重な時間を頂戴し、お話を伺い致しました。

■遠江・森町

歌枕直美(以下、歌枕):何度か小國神社に来させてもらっても時間がなく、森を歩くことができませんでした。念願かなってやっと今日、歩いてきました。とても神聖な空気で、また手入れが行き届いていて清々しい気持ちになりました。

打田文博宮司(以下、打田):当社の杜は、すべてが自然林ではなく神社のために植林されたものもあり、広さは三十万坪ほどあります。ここは南アルプス 終点の地であり、山岳地帯と遠州平野の接点で山懐に抱かれた神聖な場所です。よく奥座敷とか奥院とか言いますが、ここは遠州地方のそういう場所ですね。

歌枕:昔の人は偉いですね。そういうところとわかって神社を建立されているのですね。

打田:そうですね。数年前、調査をしたら岩盤のすぐ上に立っていて、昔の人は知っていたんですね。

歌枕:打田宮司さんから見て、小國神社は特別なところですか?

打田:様々な経緯で、ここに帰って来て、子供の時の遊び場所が、こんなに良い神社だったのかと感じました。そして、以前総代を務めてくださっていた方が、「こんな山の中の田舎で、もし小國神社がなかったら、単なる田舎だったな。」と言ってくださいました。それが、地域の方の神社に対する思いを総称している様に思いました。

歌枕:すばらしいですね。ところで、このお部屋に飾られている絵のように舞楽が小國神社に残っているとお伺いしました。

打田:この神社には「十二段舞楽」が伝わっています。山名神社天王祭舞楽、天宮神社十二段舞楽と森町には3つの舞楽が残っていて、「遠江森町の舞楽」として、国指定重要無形民族文化財に指定されています。

歌枕:この地域に3つも伝承されているというのは、本当にすばらしいですね。どうして3つも残ったのでしょう。

打田:最大の理由は、神社の祭事の中で神様に奉納するもので、娯楽ではなかったからだと思います。

歌枕:そういうことですか。また、舞楽が伝わっていく中で変化はありますでしょうか。

打田:舞楽や神楽は、時代の流れの中で変化しているものが多いと思いますが、当社の舞楽は原形をより濃く残していると思います。当時の教本抄の中に書かれていることが、舞の手振りに残っています。


■日本人づくり

歌枕:神社本庁にお務めされていたとお伺いしましたが、どのようなところでしょうか。

打田:戦前の神社は国家管理でしたが、戦後は民間となり、神社本庁が全国の神社の包括法人として設立されました。

歌枕:戦後のはじまりなんですね。実際にはどのようなお仕事をされたのでしょうか。

打田:神職の教養をはじめ、一つの業界組織が抱えるすべてのことを行っているところで、二十年間務めました。出張が多く、いろんな神社を見てきました。ここだけにいたら知り合えない人、全国の宮司さんともお会いしてお話を伺うことができました。

歌枕:全国の神社を見てこられて、いかがでしたでしょうか。

打田:神社は、日本に十万社近く有りますが、その土地や風土に根ざしていることが重要ですので、様々な様子でした。そうでなければお伊勢さんひとつが、どこか一カ所に有れば良いということになりますね。(笑)また、戦中、戦後の激動の時代を乗り越えて来た神主はすごみがありました。神道とは何ぞやと考えてこられた方はぶれることがない、大変勉強になりました。

歌枕:具体的にどういうことでしょうか。

打田:神社を守るという意味では絶対的な迫力を感じました。共通していたのは、日本づくり、日本人づくりに持論を持ち、日本を守っていくという信念を持たれていたことです。

歌枕:戦後の日本を作ってこられた時代の方々は、本物ですね。打田宮司様にとって、神社本庁での経験はいかがでしたか?

打田:この上なく有意義な二十年だったと思います。


■今に生きる古事記
歌枕:昨年ヨーロッパ公演で、和歌劇「古事記うたものがたり~神代の巻~」を上演しました。一神教の国で、古事記の世界をどのように受け止めてもらえるのかとても不安でした。

打田:そうですね。日本の神をゴッドと訳せないし、小國神社シュラインなのか小國シュラインなのか、それをどう説明するのか難しいですね。神話は感覚的に通じる世界だと思います。宗教の違いがあっても聖地は聖地。実際に、伊勢の神宮の地に立てばその神聖な空気、荘厳な雰囲気をだれでも感じてもらえると思います。

歌枕:そうですね。実際に公演を行うと、音楽を通して感じていただけ、また現地にいらっしゃる日本人の方々にも「よくぞ、やってくれた!」とお声がけ下さり、勇気をいただきました。

打田:歌枕さんの音楽で、古事記の世界、日本の伝統が伝わったのだと思います。

歌枕:ありがとうございます。これからも日本人の誇りと勇気をもって伝えていきたいです。

打田:悲惨な事故、殺人、戦争などが多発する混沌とした時代こそ、必要なものだと思います。物語の中で、何を後世に残そうとしたのか…。「神話は根拠のない作り物」という人がいます。それではあまりにも情緒がないですね。私自身、古典はつまみ食いで偉そうには言えませんが、例えば大国様が因幡の白兎に施した、がまの穂綿で傷を包む行為が看護、医療のはじまりとして、看護概論に出てくる。今は、湿布になったかもしれませんが、古事記の中の話が、今に生きています。

歌枕:学校教育で、神話がある時から教えられなくなったことを、どう思われますか。

打田:私は、教えるべきことだと思います。戦後の教育で、肝心なところを間違えたと思います。「不易流行」変えてはいけないもの、変えても良いもの、変えた方が良いものがあり、ここを間違えてしまうといけないと思います。価値観の多様化と言うけれども、単なるわがままが増えています。そこを混同しては駄目です。昨今はその混同が多すぎる様に思います。

歌枕:やまとの魂、日本人のアイデンティティを取り戻していかないといけないと思います。

打田:はい。一人でも、理解者を広めて行くことが大事で、世の中のために、誰かがやらないといけないと思います。国民運動もそうですが、天命というよりも、神様が「おまえやれ!」とおっしゃっているのだろうと思って、できることは頑張りたいと思っています。

歌枕:私も音楽を通して、できることをやって行きたいと思います。本日は、貴重なお話をありがとうございました。また来年もコンサートをさせていただきます。どうぞよろしくお願い致します。



打田 文博 (うちだ ふみひろ)

昭和28年森町一宮に生まれる。

國學院大學 神道学専攻科を修了。

昭和52年寒川神社に奉職。

昭和55年に神社本庁に転任。

渉外部長 ・神道政治連盟 事務局長 ・日本宗教連盟 事務局長などを歴任。

平成12年小國神社宮司に就任。

■現職

神社本庁 評議員 ・神社本庁 人事委員 ・伊勢神宮 評議員 

・神道政治連盟 幹事長 ・文化庁宗教法人審議会 委員 

・森町 文化財保護審議会 会長 ・静岡県神社庁 理事 

・神道政治連盟 静岡県本部長

・公益財団法人 昭和聖徳(せいとく)記念財団 評議員

・一般財団法人 日本文化興隆財団 理事

・皇室の伝統を守る国民の会 事務総長              

・美しい日本の憲法をつくる国民の会 事務総長  他多数