歌枕直美 友の会

うたまくら草子
歌枕直美の心から語りたい
vol.62 奥村彪生

NHK「今日の料理」でおなじみで、またうたまくら茶論の常連でもいらっしゃる伝承料理研究家の奥村彪生先生に3回目のご登場をいただきました。

■和食とは何か

歌枕直美(以下、歌枕):いつもお世話になりましてありがとうございます。「日本めん食文化の一三〇〇年」ご出版記念会の時には、お招きいただきましてありがとうございました。

奥村彪生(以下、奥村):こちらこそ万葉集を歌っていただき、ありがとうございました。

歌枕:また、その研究の功績が認められ、辻静雄食文化賞の受賞おめでとうございました。

奥村:ありがとうございます。この本を書くために各地の麺を食べ歩きしていましたら、血糖値があがって入院することになりました。その期間にじっくりと文献を読んでいる中で、新しい3つの発見がありました。これぞ「災い転じて福となす」でした。(笑)

歌枕:素晴らしいですね。(笑)また新しい著書を出版されるとお伺いしましたが、どのような内容でしょうか。

奥村:「和食とは何か」というテーマで、昨年の1月から書き始め、十月に出版予定です。

歌枕:ご出版前に恐縮ですが、和食とは何でしょうか?

奥村:わかりませんね。昨年、「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録されたのですが、その時農林水産省から電話がかかってきて、京都だけが盛り上がって全国に広がらないのでどうしたらよろしいでしょうか。と尋ねられました。それで「和食って何ですか?定義づけをしないのですか?」と反対に問いかけました。

歌枕:奥村先生が「和食」の定義付けをされるとしたらどのようになりますでしょうか。

奥村:我が国の正式名は、日本・ジャパン(うるしの国)なので、正しくは日本食ですね。「和食」の「和」とは何なのか。これを有名な歴史学者に聞いても返事がありません。

歌枕:それを先生がひもとかれているのですね。

奥村:はい。中国の文献に書き記されていますが、「倭国」から聖徳太子が日の出づる国「日本」と改めました。また「和」と書けば、大和を意味しますので、理屈で言えば和食は、大和の国の料理となります。そうして文献を見ていくと、平安時代に我国 日本を別称「和」と記されていました。和食は、日本食ですね。


■豊かな日本列島

歌枕:それでは「日本料理」とは、一体何でしょうか。

奥村:料理という言葉は、「料」はかる、「理」正しく切り刻むという意味があり、もともと中国語で薬剤を調合する時の言葉ですが、奈良時代に日本に伝わり、料理はうましものという意味にかわりました。

歌枕:うましもの料理ですか。素敵ですね。

奥村:はい。器に書かれていたそうです。うましもの料理が何かというと、さしみで器にうるわしく盛るということです。

歌枕:日本人は、昔から生で食べていたのですね。

奥村:はい。縄文時代から生食はありました。さしみこそ日本料理を象徴する食べ物で、今も板長が担当する日本の調理文化の根幹です。後に、味噌、醤油、酢など、醸造技術も中国から入ってきて、日本人はそれを改良していきました。

歌枕:日本人は素晴らしいですね。文字もそうですね。中国から学んだ漢字から、ひらがなを生み出しています。

奥村:百済や新羅の学者の力を借りて、大和言葉に漢字をあてはめ、平安時代には、それをくずしてひらがなを生み出し、漢字を音読み、訓読みをしひらがなを組み合わせました。そして室町時代には、カタカナが生まれ、明治に入るとローマ字まで組み入れていきました。日本人は、改創が得意な民族です。

歌枕:そうですね。いろんなことにおいて、学んだことを、アレンジして日本の文化を生み出していると思います。

奥村:車、テレビ、カメラなど精密機械もそうですね。生み出されたもとの国より、しっかりしたものに作り上げています。

歌枕:どこの段階で一番成長したというのはあるのでしょうか。

奥村:平安時代になり遣唐使が途切れた後、それまでの国際色豊かな物が日本的に変わって行きます。その後は、江戸の鎖国時代に日本的に磨かれていきます。

歌枕:日本的に改創する基は、何でしょうか。

奥村:改良を好む日本人の気質と風土です。産物でいえば、日本列島は4つの海流に囲まれており、季節に回遊してくる魚や地づきの魚が世界一なのです。また、野菜、果物もほとんど外来ですが、日本の気候風土・好みに合うように改良してきました。

歌枕:日本は、山の幸、海の幸に恵まれた国ですね。

奥村:そしてもう一つ重要なものは「水」です。日本の水は平均的に清らかで、軟水で美味しいです。

歌枕:日本の名水ですね。その特徴はなんでしょうか。

奥村:日本列島の森林が水を作っています。その雑木の根が深く、その土地の味がでています。そして岩でも、何でも溶かす力があり、人の心も溶かします。

歌枕:なるほど!。その水から、お酒や出汁をつくるのですね。

奥村:はい。出汁の文化は中国から入ってきましたが、水も素材も日本のものは良いので、美味しい出汁が作れます。精進料理と共に、豆腐、麩、こんにゃくも入って来て、その時にはじめて出汁をつくり、料理人が味付けをする文化が生まれました。そして、室町時代に調菜の文化とさしみの文化が合体して、京都で日本料理ができました。それまでは、食べる人が塩か酢で味を付けていました。


■料理は人格を作る

歌枕:今の時代、食生活が乱れてきていますが、奥村先生の考えられる重要な食事は何でしょうか。

奥村:日本食の基本は、ご飯と漬けものが根幹です。それに魚介や野菜、乾物などを使ったおかずがひとつかふたつつきました。あとは汁ものです。人間にとって一番大事なのは、家庭料理。これこそ日本の文化的財産なのです。

歌枕:家庭料理は残って行きますでしょうか。

奥村:今一番心配しているのは、甘いが旨いになってきていることです。そうすると、材料のもとの旨味が消えて行きます。調味料が過剰になってはいけません。季節の材料を生かせるように、だし、塩、しょうゆ、みそなどを上手に使って、薄味に味付けをしなければいけませんね。

歌枕:今はなんでもマニュアル化されていて、自分流に味付けをすることができない人が多くなっています。きちんと作るということが大切ですね。

奥村:はい。多少味にむらがあってもよいです。外で買って食べる料理とはちがって、ほっとする、いつ食べてもあきない、しみじみと美味しい料理であってほしいですね。家庭料理は、慈しみの味を作り、それは食べた人の心を穏やかにし、人格をもつくると思います。

歌枕:本当にそう思います。私も、茶論で皆様にほっとして、喜んでいただけるお料理をお出しできる様に務めます。

奥村:私は、万葉歌の師匠 歌枕さんの歌声で元気をもらっています。また5月の當麻寺での公演を楽しみにしております。

歌枕:ありがとうございます。お待ち致しております。今日は貴重なお話をありがとうございました。


奥村 彪生 (おくむら あやお)

日本で唯一の伝承料理研究家。飛鳥万葉時代から江戸、明治、大正ならびに昭和の戦後まで、全国のお雑煮やまんが「サザエさん」などの様々な料理を文献記録に基づいて再現。世界の民族の伝統料理に詳しく、 2009年めんの研究で学術博士(美作大学・大学院)。

■職歴・経歴

1937年和歌山生まれ。 2009年美作大学大学院卒業。

神戸山手女子短大ならびに神戸山手大学教授、奈良女子大非常勤講師、美作大学大学院客員教授を歴任。

現在、大阪市立大学大学院生活科学研究科非常勤講師。

奥村彪生料理スタジオ「道楽亭」主宰。

■社会活動

2000年度和歌山県民文化賞受賞。2010年5月第1回 辻静雄食文化賞受賞。

NHK「きょうの料理」、「関西ラジオワイド 旬の味」などに出演。

■著書

『日本めん食文化の一三〇〇年』(農文協)ほか