歌枕直美 友の会

うたまくら草子
歌枕直美の心から語りたい
vol.59 川中光教

歴史のある當麻寺奥院を守り継承されている川中光教住職に、お話をお伺いしました。

■當麻曼陀羅

歌枕直美(以下、歌枕):昨年の秋には、「大伯皇女」の公演をさせていただいてありがとうございました。また今回、五月十七日、十八日に、「中将姫」の公演でお世話になります。どうぞよろしくお願いいたします。

川中光教住職(以下、住職):こちらこそありがとうございました。歌枕さんの公演の前に、練り供養会式があります。極楽浄土から二十五菩薩が世俗へおり、中将姫を蓮台に乗せて浄土へと導いていく行事です。毎年中将姫の命日である五月十四日の十六時から行われ、夕陽の中に、中将姫が極楽へ帰っていかれるという演出になっています。

歌枕:ご住職の本の中で練り供養について読ませていただき、大変興味を持ちました。

住職:お時間がありましたらぜひお越し下さい。檀家の方の中から、その年選ばれた方が装束と面をつけて二十五菩薩に扮するのですが、観音様の面で以前使われていたものでは、鎌倉時代の物もあります。

歌枕:素晴らしいですね。ずっと続いている宗教行事でしょうか。

住職:はい。千年以上前から続いています。練り供養は、農閑期の頃で、このあたりは兼業農家が多いですので、このお祭りに合わせて休業し親族が集まり、この行事が終わってから、田植えがはじまるというように昔から続いて来たのだと思います。

歌枕:生活の中に根ざしている行事ですね。

住職:はい。最近の練り供養は、ツアーも増えているので、平日でも日曜日並みに人が多くお越し下さいます。また今年は、今年一月から二ヶ月間、JR東海のCMに當麻寺が取り上げられましたので、その影響で、関東方面からもたくさんの人が来られると思います。

歌枕:関東では、人気のあるお寺だと伺いました。どのようなCMですか?

住職:「どうして二上の里に極楽があるのか?」「どうしてこの寺のご本尊が曼陀羅なのか?」「どうして南大門は消えたのか?」という問いかけをしていくCMで、ご覧になられた方が、どうしてか知りたい、行ってみたいと思ってくださるようです。関西ではあまり流れていないのですが、関東では大変宣伝されているらしく、放送がはじまった次の日から関東ナンバーの車で来られる方が増え、非常に寒い時期にたくさんの観光客の方がお越し下さいました。

歌枕:それだけ影響力があるのですね。今回の「中将姫」の公演には、関東からのお客様もお越し下さるのですが、當麻寺で公演なされるのはタイムリーですねと言われ、はじめは意味がわかりませんでしたが、今、大変納得しました。

住職:そうですか、良かったですね。私も檀家の方から「関東の知り合いから電話があって、〝あなたとこのお寺すごいね。〟と言われたので、〝私が死んだら當麻寺からお葬式をしに来てくれるんですよ。〟と言いました。」と話されていました。


■歴史のある寺

歌枕:ご住職は、當麻のお生まれですか。お寺では、皆様代々受け継がれるのでしょうか。

住職:はい。祖父、父、私と受け継いでいますが、僧侶の場合は、江戸時代までは、妻帯が許されていなかったため、師匠から弟子へ受け継いできました。その後は、妻帯が許されていきましたので、弟子が自分の子供である場合が増えてきました。

歌枕:弟子になる、お寺を継がれるということの葛藤はありましたか?

住職:それはありましたね。小学校の頃は、恥ずかしかったですね。檀家さんからは、こぼんちゃんと呼ばれていました。

歌枕:こぼんちゃんは、どういう時に恥ずかしかったですか?(笑)

住職:父親参観や運動会などがある時はだいたい日曜日で、お寺は忙しいので父は来ることができなかったのですが、一回だけ来てくれました。着物できますので、他の子のお父さんとは、はっきり違いがわかりますし、坊主頭ですし恥ずかしかったですね。それから、その頃は親の職業を書く欄があって、農業、サラリーマン、公務員、僧侶はどこにはいるの?サービス業?先生に相談すると、先生も困られて書かなくていいよと言われた記憶があります。

歌枕:その思いはいつ頃から変わられましたでしょうか?

住職:高校くらいの時は、まだ井の中の蛙で、自分だけがどうして継がないといけないのかと思いましたが、大学に入った頃から変わってきました。親父が一生懸命やっている姿を見て、やらなくちゃいけないと思いました。そして自分は歴史のある寺で生まれたことを幸せと思いました。


■継承するということ

歌枕:前回の公演の時に、お部屋に飾られていた、ご住職様の書を拝見させていただいたのですが、とても印象的で素晴らしいと思いました。

住職:はい。やはり作品にしていくには、基本が大切で、書き順など基本が違うと、崩して書いた時に違う文字になります。基本がないと人のまねはできても、自分の文字は書けないですね。音楽も同じではないでしょうか?

歌枕:そうですね。基本は本当に重要だと思います。基本を学んで、その後、その人の世界観がでてくるのでしょうか。

住職:その人の世界観になるのか、我流になるのか難しいところですね。

歌枕:なるほど、よくわかります。どの世界も同じですね。ところでどのような題材をもちいて書かれるのですか?

住職:題材になるのは、好んで李白、杜甫等の漢詩から選ぶことが多いですね。作品を作っている時は、作品の作りやすい字があるんですね。バランスや流れが重要で、先に形に入っていくことがあり、内容よりも形と季節、季語で選んでることが多くありました。でも今は、お経の言葉から選びます。たまたま読んでいた教典の中で、響く言葉と出会った時などを題材にします。

歌枕:素晴らしいですね。海外公演の時に〝書〟は、日本文化の一部として大変好まれていると聞きます。今、本堂の修復をなされていますが、大変なお仕事ですね。

住職:大変ですね。今は創建した当時の姿にもどし、文化財としての良さを歴史でわかるように修復・復元しています。以前は、法要などで使いやすい様にしていましたが、文化財としては目的が違います。

歌枕:使いやすさも大切ですが、文化財として伝えていくことも重要ですね。ご住職のこれからの、目標はおありですか?

住職:中将姫や當麻寺の中にある仏様について皆様に伝え、来ていただいた方に、もう一度来たいと言っていただける様にしていきたいと思っています。また當麻寺の歴史の中で今の姿をきっちりと残していくこと、そして奥院を守り、次に継承していくことが私の使命と思っています。歌枕さんも、音楽を通して日本の文化を伝え続けてください。

歌枕:歌枕:そうあれるよう努力します。本日は、大変貴重なお話をありがとうございました。



川中 光教(かわなか こうきょう)

昭和25年5月生まれ。

大正大学大学院修士修了。

當麻寺奥院 住職 昭和63年就任。

當麻寺住職・保護司

浄土宗宗議会議員

浄土宗中央等級審査会委員長