歌枕直美 友の会

うたまくら草子

歌枕直美の心から語りたい vol.57
ヴウォデク・パストゥシャク
エウジビエタ・グニップ

世界遺産の街・ポーランドザモシチ。そのザモシチにおいて、ルネサンス協会 主宰 エウジビエタ・グニップ氏と画家 ヴウォデク・パストゥーシャク氏そしてその仲間たちとの対談を行いました。

■縁
 
歌枕直美(以下、歌枕):パストゥシャク先生、エウジビエタさん、昨日のアートフェスティバルでは大変お世話になりましてありがとうございました。
 
ヴウォデク・パストゥシャク(以下、パストゥシャク):歌枕さん、ザモシチに来てくれてありがとう。また、昨日のコンサートでは、集まられた皆さんを、とても素晴らしい演奏で驚かせてくれてありがとう。皆さんとても喜んでいらっしゃいました。心から感謝しています。
 
エウジビエタ・グニップ(以下、グニップ):とても感動しました。今まで、いろんな舞台芸術を見てきましたが、歌枕さんの和歌劇のようなコンサートは、はじめてで、その世界に引き込まれました。
 
パストゥシャク:2年前、私もはじめてワルシャワで歌枕さんの公演を聴いたとき、大変な衝撃を受けました。はじめて見る、聴く、私の想像のつかない世界がここに起こっていて、暗闇の中に響く音楽と歌枕さんとその後ろの映像しかなかった。何も考えることができなかったです。
 
歌枕:ありがとうございます。昨年はパストゥシャク先生のお声がけで、ルブリンにあるマリー・キュリー大学の記念コンサートにて公演させていただきました。またその時に「来年はぜひザモシチに来てください」とお声がけしてもらい、何が何でも来なければいけないと思いました。
 
パストゥシャク:ここでのアートフェスティバルは、ポーランドの詩人レシミャンの詩に共感したアーティストの集まりですが、歌枕さんの音楽と感性に、レシミャンの詩心と共通するものを感じましたので、お誘いしました。
 
グニップ:はじめにパストゥシャクさんより、歌枕さんを紹介された時、日本語のコンサートは固いのではないかと思いましたが、CDを聴かせていただいたら想像とは全く違いました。それでもアートフェスティバルに合うのだろうかと迷いましたが、実際には本当にぴったりで、これは縁がちゃんとつながっていたんだと感じ、より感動的でした。
 
歌枕:様々な巡りで、7年前に、海外公演をする国として、ポーランドにやってきました。その後、いろんなご縁が生まれ、毎年ポーランドに来させていただいています。
 
グニップ:不思議なご縁ですね。
 
■詩・人生の大切なテーマ
 
歌枕:このフェスティバルはエウジビエタさんが主宰されるルネサンス協会が主催されているとお伺いしましたが、ルネサンス協会とはどのような団体ですか?
 
グニップ:はじめは私の文化活動からはじまりましたが、一人ではできることが限られていて、私の活動に共感してくださる方々がボランティアで協力してくださる様になり1992年にルネサンス協会を立ち上げました。
 
歌枕:素敵なお仲間ですね。アートフェスティバル開催のきっかけは、どのようなことだったのですか?
 
グニップ:はじめたきっかけは、レシミャンの詩は、自然、美、神、いろんな人生の大切なテーマが含まれていて、自分の言葉を使ってポーランドの大切な言葉を創り出していて、私自身が好きだということと、以前は、ポーランドでは皆が学校で習ってもいましたが、最近は忘れられかけているということがあり、思い出してもらえる様に、レシミャンの生誕70年記念日にはじめてのフェスティバルを開催しました。それと同時にレシミャンの本の出版なども行いました。
 
歌枕:素晴らしいですね。
 
グニップ:それで人が興味を持ってきたので、1回で終わらず、継続してました。芸術家の皆さんのご協力をもって、毎回、1つの詩をテーマに、それぞれの芸術での表現で新しい作品を作って参加していただき、今年で5回目になります。
 
歌枕:継続させていくといことは、本当に重要なことですね。私も、万葉集や今回の和歌劇「月と黄金」に出て来た西行の詩などを、和歌劇を通して再認識してもらえるように新しい芸術として制作し、公演活動をしていますので、内容は違いますが、活動の趣旨がとても似ていますね。
 
グニップ:本当にそうですね。ポーランドでは、若い人が詩への興味をあまり持たなくなりました。日本ではいかがでしょうか?
 
歌枕:日本でも同じで、一般的には興味を持つ若い人が少ないですね。でも、日本の昔の和歌を音楽に乗せて歌うことで、子供たちにも興味を持ってもらえ歌ってもらえる様になってきました。ところでパストゥシャク先生は、このアートフェスティバルに1回目から参加されているのですか?
 
パストゥシャク:はい。私はルネサンス協会にいらっしゃるエウジビエタさんをはじめとする皆さん、おひとりおひとりが素晴らしいと思い、皆さんに共感し、はじめから参加しています。
 
歌枕:ルネサンス協会では、このフェスティバル以外にも活動をされていますか?
 
グニップ:はい。歴史、地域文化を発展させるためのセミナーやシンポジウム、コンサートなどを行ってきました。そして昨日は、レシミャンの生きていた百年前から使われていなかった建物(軍事施設)を、復活させ再び展覧会・コンサートの会場として使用しはじめる記念の開会式でもありました。
 
歌枕:特別な記念の日に、参加させていただけてとても光栄でした。
 
■芸術の街・ザモシチ
 
歌枕:エウジビエタさんは、ザモシチのご出身とお伺いしましたが、ザモシチはどのような街ですか?
 
グニップ:ザモシチは、ヨーロッパで1番素敵な所だと思います。市役所やその横のイタリアルネッサンスの影響を受けた色鮮やかな建物が美しいです。そして芸術の学校が集まっているところで、芸術高校が2校、音楽大学が2校あります。7月〜9月は芸術イベントが多く、街全体がアートサロンと呼ばれています。
 
歌枕:芸術の街ですね。素敵です。
 
グニップ:ザモシチでは、お金のためでなく、義理でもなく、街が好きだから働いている人が多いです。昔は、ザモシチにはいろんな国の人が住んでいて、国籍は違うけど、みんなザモシチ人と思っていました。ヨーロッパの街ではいろんな精神や宗教がありますが、ザモシチはオープンな街で、教会もいろんな教会があり、誰でも居場所を見つけることができる街でした。
 
歌枕:ザモシチ人であることを、誇りに思っていらっしゃるのですね。レシミャンとザモシチはどのような関係ですか?
 
グニップ:レシミャンは、10年くらいザモシチで働いていました。そしてザモシチでインスピレーションを受け、「野原」など自然を読んだ作品を書いています。人生の大事な時期をザモシチで過ごしたと思います。
 
歌枕:インスピレーションを感じることは重要ですね。今回のフェスティバルでの皆様の作品を全部理解できたわけではありませんが、生み出していく力、パワーを感じました。どの世界も同じですが、ひとつの形を教えられて、はじめはその形を真似ていき、そしてそれを突破していくのが芸術で、それを感じました。
 
グニップ:ありがとうございます。創っている時が芸術で、完成したら別物だと思います。真っ白なページを見て、そこに創造していくことが重要だと思います。
 
歌枕:そうですね。完成した作品は、子供と同じですね。パストゥシャク先生の表現方法はいつ確立されましたか?
 
パストゥシャク:「108つの煩悩」シリーズを書き始めた5年くらい前だと思います。それまでは、決まったスタイルはなしで描いていました。
 
歌枕:昨年、ルブリンで「煩悩」の作品展を拝見させていただきましたが、とても素晴らしかったです。この「煩悩」の制作はずっと続いていくのですか?
 
パストゥシャク:はい。まだあと5年くらいかかると思いますが、現実には自分の予定と違うかもしれません。でも完成させると神様と約束しましたので、急いでいます。時間がかかるので、作品の大きさがはじめより小さくなりました。(笑)
 
歌枕:(笑)
 
パストゥシャク:「108つの煩悩」すべての作品が完成した時、作品展をこのザモシチの街で行いたいです。すべての作品が完成したら、いつ死んでも悔いはないです。
 
歌枕:その時は、またコンサートをさせてください。
 
グニップ:ぜひまたザモシチにいらしてください。お待ちしています。
 
歌枕:今日はお忙しい中、皆様にお集まりいただき、貴重な素敵な時間を過ごさせていただきました。ありがとうございました。
 
 
 
*ザモシチ
ポーランドの南東部に位置する小都市。世界遺産に指定された美しい街並みは1580年にポーランド人貴族ヤン・ザモイスキによって造られ、ザモイスキの名にちなんで「ザモシチ」と名付けられた。
旧市街の中心広場に立つ市庁舎は、ルネッサンスとゴシックが融合した建築様式で、ザモシチを象徴する建物。
 
 
 
 
 

Włodek Pastuszak(ヴウォデク・パストゥーシャク)

芸術博士、技術博士。

ポーランド日本情報工科大学ニューメディア学部副部長。ルブリン芸術大学准教授。

個展を14回開催。絵画、グラフィックでの展覧会にも多数出展。フランス、ハンガリー、イタリアでの展覧会にも出展。また、ポーランド、チェコ、ドイツ、デンマーク、オーストリア、フランス、スイス、イギリスなどの個人コレクターが絵画を購入し愛好されている。



Elżbieta Gnyp(エウジビエタ・グニップ)

ルネサンス協会主宰。ポズナン芸術大学にて絵画、スケッチを専攻。卒業後、ワルシャワ大学にて歴史を学ぶ。

絵画、スケッチ、本の挿絵、写真など活動の幅は広く、芸術分野での指導も行っている。またエッセイを書くなど芸術に関わる書籍の出版。雑誌、カタログ、詩集など、130冊を出版がある。イタリア、ロシア、ドイツにて70回の展覧会に出展。1996年、1998年ザモシチ地域賞を受賞。2004年ザモシチ市長賞を受賞。また、2004年、2005年ジャーナリスト賞を受賞。