歌枕直美 友の会

うたまくら草子
歌枕直美の心から語りたい vol.55  筒井寛昭

奈良・東大寺の上院院主である筒井氏に、うたまくら茶論にお越しいただき、貴重なお話をお伺いしました。

■ひとつの価値
 
歌枕直美(以下、歌枕):昨年の秋、大仏様のお祭りの日にコンサートをさせていただいてありがとうございました。
 
筒井寛昭(以下、筒井):あいにく当日は雨で、鏡池でできなくて残念でしたが、金鐘ホールでのコンサートは素晴らしかったです。
 
歌枕:ありがとうございます。筒井さんは、大佛殿の裏にお住まいでいらしゃるとのことですが、代々、その場所にお住まいなのでしょうか。
 
筒井:筒井の家は、もともと郡山の方で、お城の仕事をしていましたが、その中のひとりがお坊さんになって、西大寺で修行をしました。
 
歌枕:では東大寺へこられたのは、いつからでしょうか?
 
筒井:明治から政策が変わってどこもお寺の維持ができなくなり、僧侶が神主になったりしていました。その頃は、拝観とかしていませんでしたので、東大寺も経営ができなくなってきて2~3人で運営していました。お水取りのときなど人が少ないので、興福寺からきて修行に入ったりしていました。その頃、曾祖父が西大寺から東大寺にきました。
 
歌枕:お坊さんは、世襲制でしょうか?
 
筒井:世襲制ではなく、住職は一人弟子を持てることになっています。それは子供でも良いし、他人でも良いのですが、小学校5~6年でお坊さんになりますという表示をし、お寺の行事に触れ、中学生ぐらいで向いているかどうかを判断して、その後、得度を受けて後を継ぐ弟子になります。
 
歌枕:筒井さんは、子供の頃からお坊さんになると決められましたか?反発はなかったですか?
 
筒井:誰でも向いているとは限らないですし、ほかの自営の家の子供と同じで、一度は家を継ぐのが嫌だと思いますね。
 
歌枕:そうですね。でもずっとお坊さんの勉強をなされたのですか。
 
筒井:大学では社会学が専門で、違うところからお寺を見ていました。そして古美術研究会に入っていました。
 
歌枕:古美術はお好きですか?
 
筒井:仏像が好きですね。東大寺に居ますと、1200年以上前からの仏像を観ています。そうすると鎌倉時代ぐらいのものまでが美術的に素晴らしいと思っていました。でも、いろんなところに出かけてみると、新しい仏像でも一生懸命拝んで信仰している人がいる。いったい仏像の価値とはなんだろうと、その時に考えました。
 
歌枕:本当にそうですね。美術品として見る視点とは違いますね。
 
筒井:美術的な観点とその仏像が醸し出しているオーラの2つの視点があると思います。その時、またひとつの価値をみました。
 
■お水取り
 
歌枕:以前いただきました「お水取り」のCDを聴かせていただきました。お水取りは、有名な行事で素人でも知っていますが、1200年変わらず続いているというのは、素晴らしいことですね。
 
筒井:やっている人間は、1200年という重荷の中でやっておらず、今年の2週間の行をきちんと行うことだけ考えています。その時その時を思って行っていたら、1200年続いていたということだと思います。
 
歌枕:素晴らしいですね。「お水取り」について知らない人に説明をするなら、どのような行ですか。
 
筒井:人間は、一人で生きていけるわけではありません。人に迷惑をかけたり、動物の命をとって生きたりしていますが、普段は振り返ることがなかなかありません。この時に振り返り、そしてまた新しく生きようとする行事です。
 
歌枕:「お水取り」は、一番寒い時期に行われますが、行をしていたら寒くないものですか?
 
筒井:寒いですが、逃げられないですしね。(笑)
 
歌枕:はい。(笑)お水取りには、全国から多くの方がいらっしゃいますがいかがですか?
 
筒井:私の子供の頃は違いましたが、最近は、観光イベントとして見に来られる方が多いので困ります。松明があがったら、拍手をされたり、声をあげられたり、その様な皆様は、イベントと思っていられるので、宗教行事としての説明をしないとなりません。
 
歌枕:お寺として、観光ということをどのようにお考えになられますか?
 
筒井:日本人より、外国人の方が、お寺の観光の意味がわかっていらっしゃる方が多いと思います。日本人は、いつも近くにあるから、何気なく気にしないでいるけれども、外国人は「これは何?」と、疑問を持って、理解したいと思って見ています。最近は、大仏殿に入っても、帽子をとって合掌する人も少ないです。
 
歌枕:そうですね。
 
筒井:子供たちが来た時に説明します。「よそのおうちに行ったら、ご挨拶するでしょう。お寺では、どうするの?」と問いかけます。理屈をつけて、宗教行事だからと言う方もいらっしゃいますが、ひとつの礼儀だと思います。
 
歌枕:ちゃんと子供たちに伝えていかないといけないですね。
 
筒井:はいそのとおりです。
 
■「養育・医療・教育」
 
歌枕:20代の時に、東大寺の肢体不自由児の施設 整肢園で演奏をさせていただいたことがあります。今は、筒井さんが理事長をお務めだとお伺いしました。
 
筒井:はい。今は名称が変わり、東大寺福祉療育病院となっていますが、はじめは、1995年 光明皇后1200年御遠忌の記念事業として「養育・医療、教育」で障害者救済する施設として、預かるだけでなく、学校、医療、お母さんのように接する、この3本柱をコンセプトに持った東大寺整肢園が開設されました。
 
歌枕:そこまでのこととは、知らなかったです。本当にそれで50年以上続けてこられて素晴らしいですね。
 
筒井:もともとは小児麻痺ポリオでの肢体不自由児を社会復帰させようということで、できた施設です。脳性麻痺とは違うので、訓練によって機能を回復することができるんです。今、施設としては、脳性麻痺障害を持つ方を受け入れています。重度の人は、収容できる施設が少ないです。
 
歌枕:それはどうしてですか?
 
筒井:大変お金がかかります。それで、在宅看護が理想になっているけれど、難しいことです。外国は、家にいてもキリスト教のボランティアで助けてくれるようなことがありますが、日本では社会的な組織がありませんので無理があります。
 
歌枕:東大寺でされていることは、本当に意味がありますね。東大寺のような大きく立派な組織の上に立たれて、それは運命ですか?
 
筒井:私は、肩書きに東大寺とつくのは嫌で、個人としての行いが大事だと思っています。
 
歌枕:流石です。そこで生まれ育って、こういう社会的なお仕事をされてすごいことだと思います。
 
筒井:私は執事のような仕事が向いていて、いろんなことを考え、発想するのが好きですね。華厳宗に「六相円融」という教えがあります。いろんなものがうまく混ざり合わさって社会ができているということです。ものごとは、いろんな方向から見ないと正確な真実を表しているとはいえない。自分で確かめていろんな方向から見ることが大切だと思います。
 
歌枕:今は、いろんな情報が溢れていて、それが正しいと思いがちですね。多面的に自分の目でちゃんと見ることが大切ということですね。今日は貴重なお話をありがとうございました。これからもよろしくお願いいたします。
 
 
 

筒井 寛昭(つつい かんしょう)

1946年奈良県生まれ。

1958年に得度。

1996年権大僧正となる。

1999年に東大寺財務執事

2007年5月に東大寺執事長に就任。

現在、東大寺上院院主、東大寺福祉事業団理事長。東大寺塔頭龍松院住職。