歌枕直美 友の会

うたまくら草子
歌枕直美の心から語りたい
vol.54 森川裕一

日本の原点でもある奈良・明日香村。
昨年10月に村長になられた森川さんに、明日香村にかける思いをお伺いしました。

■日本誕生!
 
歌枕直美(以下、歌枕):三月には万葉文化館にて、お声がけをいただきましてありがとうございました。
 
森川裕一村長(以下、森川):万葉の歌をお聞かせいただけて、嬉しかったです。
 
歌枕:森川村長さんは、昨年の十月に、明日香村の村長になられたとお伺いしましたが、何かきっかけはお有りだったのでしょうか?
 
森川:昨年七月に、前村長がやめられると発表され、勝手に義務感を感じて手を上げました。父母が明日香村に住んでいて、一年に2週間くらいは帰っていました。子供の頃から「こんなにすごいところはない!」って思っていました。
 
歌枕:明日香村のすごいところとは、どういうところでしょうか?
 
森川:はい、歌枕さんは大神神社へ行かれていると思いますが、鳥居をくぐったところから空気が変わることを感じられますか?
 
歌枕:それはいつも感じます。
 
森川:明日香も同様にこの地域に入ると、その空気があります。古墳時代、伝説の時代から、歴史の時代に浮かび上がってきたのが明日香です。そこで「日本」「天皇」という単語が生まれた。人間に大切なのは、自然と積み重なる歴史です。日本の歴史の始まるところで生活できれば、本当の豊かな生活ができるのではないかと思います。
 
歌枕:本当にそうですね。奈良県庁にお勤めだったとお伺いしましたが、県庁職員からの大転身ですね。
 
森川:はい、すべてを投げうっての選挙で、人からは六十歳で県庁を退職してからの方が良いのではなどの意見もありましたが、六十歳まで勤めて村長になるより、今、五十代半端でさせていただく方がよいと思いました。エネルギーも今の方がありますしね。(笑)
 
歌枕:選挙でのご苦労などはありましたでしょうか?
 
森川:本当に大変でしたが、知らなかったからできたと今思います。そして、選挙活動最後の一声、私は、石舞台の上の集落で、ちょうど暮れゆく空が美しく、そこから石舞台と二上山に向かって、「私は、素晴らしい明日香村を守り、未来を作りたい!」と、演説しました。忘れられない思い出です。
 
歌枕:感動的なお話ですね。
 
■明日香法
 
森川:明日香村は、明日香法(明日香村措置法)という法律が約三十年前に出来ました。ひとつの村だけに法律があるというのは、大変珍しい例です。
 
歌枕:明日香法は、どのようにして生まれたのでしょうか?
 
森川:日本の高度成長期、周辺の市町村も大阪の通勤圏内になり、住宅開発がされてきました。また、産業の零細化、後継者不足などの問題も出てきました。そこで、松下幸之助さんなどが立ち上がり、「歴史風土の保存と住民生活の向上」の2本柱とした、明日香法が昭和五十五年にできました。
 
歌枕:主にどのような内容なのでしょうか?
 
森川:わかりやすい部分では、明日香村の全域に古都法の規制がかかり、日本一家を建てたり、建て替えることが難しい村になりました。しかし、住民は固定資産税が半額です。
 
歌枕:固定資産税が半額ですか?はじめて知りました。それでも生活するには、大変ですね。
 
森川:はい、明日香法ができて三十二年。四十歳未満の方が少なく、就学、就職で、生活しやすくてにぎやかな所に住もうと離れる人が多く、働き手、地域の担い手がなくなり、地域の力がなくなっています。
 
歌枕:原風景を守りながら、若い人に住んでもらえるようにするには、何が必要ですか?
 
森川:ひとつのことではありませんね。子供を育てる環境、利便性、教育、医療など、いろんな点があります。しかし、明日香に行くと、本当の人間教育をしてくれる、歴史があって、自然があって、一生涯学び続けるところ、それが明日香村だと主張していきたい、それが魅力のひとつになると思います。
 
歌枕:今、はじまったところで、大変だと思いますが、未来へ向けて動き出されたのですね。
 
森川:はい。教育は、入口の小さな結果はすぐに出ますが、本当の結果は二十年先でしか出ません。道路でも橿原~明日香間ができるのに十五年かかっています。すると、十五年先にどうなのかを考えて取り組まないといけません。
 
歌枕:本当にそうですね。最初にお話くださった明日香法を、いい意味で活かすことが重要なんですね。
 
森川:そうです。住んでいる人にも、訪れる人にも、いい意味で活かせることを目指しています。
 
■五感・体感
 
歌枕:明日香村へ外から訪れる私たちは、歴史、日本のふるさとと、断片的にしか見ていなかったように思います。
 
森川:明日香村は、村全体が「まるごと博物館」で、五感で体感していただけるところです。空が大きくて、自然の音が聞こえる、そういうものを人間として思い出さないといけないと思っています。
 
 
歌枕:五感で感じるというのが素晴らしいですね。街なかに住むと、そういうものが鈍っていますね。
 
森川:外から訪れた人が、「明日香っていい!」って感じてもらえるように、いろいろと進めています。
 
歌枕:具体的にはどのようなことがありますでしょうか?
 
森川:農家民泊を五〇件くらい登録していただいて、修学旅行や海外からの学生旅行の受け入れを行えるようにしています。
 
歌枕:農家での受け入れ、すばらしい経験になりますね。
 
森川:また、地元企業とともに明日香ブランド商品の開発も。また、飛鳥駅に降り立った時に、見る、体験する、食べる、泊まる、買うなど便利な情報がわかるようにしていきます。
 
歌枕:今まで、明日香に訪れても、美味しいお店や泊まるところを見つけることができなくて、他の所で泊まっていました。
 
森川:ぜひ、次回は明日香でお泊りください。また目に見えない情報もお伝えしていきたいです。
 
歌枕:例えば、どんな情報ですか?
 
森川:例えば、石舞台からは、二上山が見えます。蘇我氏が住んでいた甘樫の丘からは二上山が見えていたから、石舞台からも見たかったのだと思います。また、高松塚古墳、キトラ古墳に描かれた女性像などは、守り神であったり、自分たちを支えてくれた人でもあるので、柩に寝ている人から、目線まで合うように描かれています。
 
歌枕:そいういうことを先に知っていると、また感じ方が違いますね。森川村長さんの生の声に、すごいエネルギーを感じました。感じられていること、考えられていることをお伺いさせていただき、今日は本当に感動いたしました。貴重なお話をありがとうございました。また、明日香村でコンサートをさせていただきたいです。
 
 

森川 裕一 (もりかわゆういち)

昭和31年3月10日生

京都大学大学院 工学研究科修了

昭和56年4月 奈良県庁入庁

平成23年9月 公立学校法人奈良県立医科大学退職

平成23年10月 明日香村長に当選