歌枕直美 友の会

うたまくら草子
歌枕直美の心から語りたい
vol.53 高城修三

芥川賞作家であり、現代連歌をひろめられている高城修三先生に、お話をお伺いいたしました。


■小説家への道
 
歌枕直美(以下、歌枕):先日の連歌会に、お招き下さいましてありがとうございました。とても楽しかったです。
 
高城修三(以下、高城):ご参加いただきまして、ありがとうございました。
 
歌枕:今日は、まずお伺いしたいと思ったことは、小説家にはなかなかなろうと思ってなれるものではないと思うので、小説家になろうとされたきっかけは何ですか?
 
高城:大学は文学部で、言語学を専攻していました。その頃は、同人誌というのがあって、若い人は小説に興味を持っていました。
 
歌枕:大学時代から、小説を書かれておられましたか?
 
高城:はい。大学卒業後は1~2年出版社に勤めて、その後は塾をしながら、書いていましたね。
 
歌枕:影響を受けた作家はいらっしゃいますか?
 
高城:武田泰淳、深沢七郎、川端康成、柳田國男などですね。柳田は民俗学ですが、おもしろく大好きでした。
 
歌枕:柳田國男といえば、「遠野物語」ですね。
 
高城:特に柳田は文章の達人で、影響を受けましたね。
 
歌枕:小説家になられて、ご自分の天職と思われましたか?
 
高城:好きだからやってきました。
 
歌枕:それで生きていけたら、素晴らしいですね。
 
高城:高度成長期だったからできたことだと思います。どうにでもなる!と生きてこられましたからね。(笑)
 
歌枕:芥川賞を受賞されたのは、お若い時でいらっしゃいましたね。
 
高城:30歳ですね。
 
歌枕:その後、何か変化がありましたでしょうか?
 
高城:東京の出版社の態度がごろっと、変わりましたね。その後1年くらいは依頼がいっぱい来て大変でした。(笑)
 
■近代文学から連歌へ
 
歌枕:小説をお書きになられていて、連歌へと移られたのはどうしてでしょうか。
 
高城:近代文学は、読者の前に並ぶ活字がすべてなんですね。音楽で言うと、楽譜がすべてというのと同じです。
 
歌枕:演奏されている音楽ではなくて、楽譜がすべて、その意味がよくわかります。
 
高城:連歌は、多数の人が一カ所に集まり詠みつないでいきます。中世の連歌は、和歌の世界を理想としたものでしたが、江戸時代になり平和になると、現実の生活も詠われるようになって行きました。これを「俳諧の連歌」といい、松尾芭蕉によって国民的広がりをもつようになりました。その後、西洋近代化の時代になると活版印刷がはじまり、近代文学が登場しました。それを進めた正岡子規が「連歌は文学に非ず」と否定したため、一旦消えてしまいます。
 
歌枕:連歌はどうして、否定されたのですか?
 
高城:近代文学が文学として立って行くためです。連歌は、多数の人が共同で次から次へと句を詠み継いでいき、それにつれて句の解釈が変わっていくので、個人の個性表現をもとにして近代の文学が生み出した著作権も怪しいことになります。著作権があやふやなものは文学でないという論理です。そうしてできた近代文学も100年くらいで終わってしまったと思います。
 
歌枕:それはどうしてでしょうか?
 
高城:近代文学は近代化の過程に生きた人間や社会を描くものとして出発したのですから、近代化が達成すると、何を書いていけばよいのかがわからなくなり、先がみえなくなったのではないでしょうか。
 
歌枕:高城先生は、正岡子規をどのように思われますか?
 
高城:近代文学を作った功労者と思っています。新しいものを作る時は、行きすぎるくらいの人が必要だと思います。
 
歌枕:本当にそうですね。連歌のおもしろさは何でしょうか。
 
高城:連歌の本質は、異質なものを出合わせて新しいイメージや発想を生むことです。それがおもしろい。そして、その連歌のはじまりである連歌の発句は、その場に来られている人へのあいさつであり、そこでは季節の言葉を詠みこむことが大切になってきます。
 
歌枕:おもてなしの心のようですね。
 
高城:そうです。日本人は、「お暑いですね」などあいさつに季節感を入れます。それを共有することによって共通の精神的基盤が生まれます。
 
歌枕:そこから連歌がはじまるのですね。
 
高城:はい。そして連歌は、歌枕さんのコンサートと同じで“場”が重要で、そこに集まった人との対話です。
 
歌枕:まさにライブですね。
 
高城:はい。連歌会では、その時に詠んだ句を懐紙というものに書き付けていますが、芭蕉も言っているように連歌が終わったらそれは紙屑でしかないんですね。その場における楽しみがすべてです。
 
歌枕:よくわかります。
 
高城:同じ歌でも、私は「文字」を介した歌。歌枕さんは、「音楽」を介した歌ですね。
 
歌枕:私のできることはそれしかなくて…。
 
■「芸術は出会いだ!」
 
高城:歌枕さんの和歌劇は、とても連歌的です。「日本の伝統的な歌と西洋起源のオペラ」そのふたつの出会いで、新しい世界が生まれている。それが私から見ると、とても連歌的です。
 
歌枕:そういう捉え方もあるんですね。
 
高城:歌枕さんの演じられる和歌劇のように、記紀・万葉の時代は、基本的に歌物語なんですよ。初期の万葉七世紀頃の歌は、額田王、大海人皇子、大津皇子の悲劇、但馬皇女、大友皇子などのことが、歌物語として楽しまれ、それが後に編集されて万葉集になりました。
 
歌枕:ちなみに高城先生は、中でも誰に興味がありますか?
 
高城:額田王……、狭野茅上娘子にも興味がありますね。おもしろいですが、あんなに激しく恋をされたら、困りますね。(笑)
 
歌枕:焼き滅ぼされますか?(笑)今日、お話をおうかがいさせていただき、私も連歌を勉強してみたくなりました。
 
高城:これも芭蕉が言っているのですが、一芸に秀でた人は、早く連歌に上達するようです。歌枕さんは、和歌劇をなされてきた実績もあるので、4~5年勉強されたら、宗匠になれますよ!
 
歌枕:その気になってしまう自分が恐ろしいです。
 
高城:それぞれの世界で異質なことをやっている人が集まって連歌を行うと、そこから思いがけないものが、生まれてくると思います。ぜひ、一緒にやりましょう。
 
歌枕:はい。宜しくお願いします。先生、最後に一言お願いします。
 
高城:連歌で一番大切なのは出会いです。だから、「芸術は出会いだ!」
 
歌枕:素晴らしい一言!感動しました。今日は、貴重なお話をありがとございました。
 
 

高城 修三 (たき しゅうぞう)

1947年高松市生れ。

京都大学文学部業。

1977年『榧の木祭り』で新潮新受賞。

翌年同作にて芥川賞を受賞。

主な著書に『糺の森』『約束の地』『苦楽利氏どうやら御満悦』『京都伝説の風景』『紫の歌』『大和は邪馬台国である』『紀年を解読する』『百歌繚乱』『可能性としての連歌』『神武東征』『日出づる国の古代史』などがある。