歌枕直美 友の会

うたまくら草子
歌枕直美の心から語りたい
vol.21 有本哲史

現在、歌枕が出演させて頂いている「万葉紀行」は、NHKデジタルラジオ企画のひとつ。そのデジタルラジオのプロデューサー・有本哲史氏にお話しをお伺いしました。

■ワインと歌と…

歌枕直美 念願の有本プロデューサーとお仕事をさせて頂くことができて光栄です。
有本さんは、何がきっかけでNHKに入られたのですか。

有本哲史氏(以下敬称略) 少年の頃、趣味がオーディオとカメラだったんですね。ある時大学の先生に、ドイツの役所で録音をしてきたのを聴かせてもらって、クリアに録音されたなまりのある言葉がとても新鮮に感じました。そこから、放送局=音っておもしろいと思いましてね。だから、活字のマスメディアは全く考えていませんでした

歌枕 「言葉」の響きに興味を持たれるなんて、おもしろいですね。

有本 実は、大学時代ドイツ語を専攻していまして、言語学者になりたいなんて、思ったこともありましたね。

歌枕 ドイツの言葉で、心に残っていらっしゃることはありますか?

有本 僕にとっては、これですかね。(笑)
 Wer nicht liebt Wein, 
 Weib und Gesang,
 Der bleibt Narr 
 Sein Leben lang 
 (M.Lurher)
(ワインと女性と歌を愛さない者は、
生涯を通した愚か者…。)
あの時代に、このような自由な発言をしたルターに驚きがありました。

歌枕 そんな洒落た言葉を、宗教改革のルターが残しているなんて知りませんでした。
私なら、まず「音楽」。そして「お酒と語らい」です。

有本 さすが音楽家ですね。(笑)


■ 番組制作の原点はラブレター

歌枕 番組作りにおいて、有本さんが重要とされていることはありますか。

有本 入社した頃、報道部にいた時期に、いろんな現場にあたり、「相手の立場に立つことが重要」と先輩より教えられました。それが今でも基本になっています。

歌枕 どんな仕事においても重要な視点ですよね。

有本 歌枕さんのステージは、目の前にお客様がいらっしゃって、息づかいが返ってくるでしょう。でも、我々のテレビやラジオは出しっぱなしなんですね。だから、いかに主人公やテーマに惚れ込んでいるかを、いろんな人に伝える番組作りを目指しています。原点は、いわばラブレターですね。(笑)

歌枕 参りました。(笑)

有本 あとこの新しいNHK大阪放送局の基礎工事をしている頃、ふっと見ていると、ブルドーザーなどの作業車が入るための舗装の道を、とても丁寧に美しく造っているんです。その様子に感動しましたね。こうやって建物が完成した時には、消えてしまい見えない役割の仕事ですが、安全に作業が進むように造られている。どんな大きな仕事にもそういう役割の仕事があって、成り立っているんだと思います。そういう心を忘れず何事にも取り組むことですかね。

歌枕 いいお話しですね。番組制作においても、舞台制作においても、一緒ですね。その裏に、見えない仕事の積み重ねがあってこそ、人の心を揺り動かす作品が生まれてくるのだと思います。


■昨日の我に、今日は勝つべし

有本 今、デジタルラジオは、基礎工事の時期です。この番組制作の中で、文化の継承、音の記録など次の時代へ語り継げる物を作りたいと考えています。街が変化していくことで、どんどん消えていく音がある、それは後世に残していかないといけないのではないかと思います。

歌枕 残すべきもの、継承すべきものを見失ってはいけませんね。万葉集もそれを残すために、名も残っていない人の歌を含め継承された…。そこに感動があります。

有本 万葉集は今でも色褪せない。また、万葉の時代は女性が元気な時代。そこを、現代の歌姫の歌枕さんがこれからどう描いていかれるかが、大変楽しみです。柳生新陰流の方に聞いた言葉ですが、「昨日の我に、今日は勝つべし」カッコよすぎます?

歌枕 はい!(笑)デジタルラジオの基礎工事、よろしくお願いします。私はついていきます。

有本 哲史 (ありもと てつし)

NHK大阪放送局・エグゼクティブプロデューサー

1948年大阪生まれ。大阪外国語大学ドイツ語学科卒。

1971年NHK入局。報道番組ディレクターを経て、BS-2「クイズ歴史紀行」BS-1「アジアTV曼陀羅」BS-1「上海ウォーカーズ」などを制作。

2003年10月からデジタルラジオ実験化放送プロデューサー。

作詞に「上海弄堂故事」「上海夢幻」などがある。