歌枕直美 友の会

うたまくら草子
歌枕直美の心から語りたい
vol.10  中西 進

広い視点で万葉集をはじめとする数々の著書を書かれている文学博士の中西進先生にご登場頂き、貴重なお話をお聞かせ頂きました。

■作品作りのヒントとは‥
歌枕直美(以下歌枕) いつも、先生の著書を読ませていただいています。先生の感性に共感と刺激を受け、作品づくりのヒントにさせていただいています。

中西進氏(以下敬称略) 歌枕さんの作品のどんなヒントになっているのでしょうね。

歌枕 先生の文章から、現代の私たちに置き換わってくるものを感じ、それが音楽的なインスピレーションへとつながるのです。 

中西 感性の世界ですね。CDを時折聴かせて頂いております。

歌枕 ありがとうございます。

中西 ところで、歌枕という姓はご本名なのですね。いいお名前ですね。とても興味があります。

歌枕 歌枕だから万葉集をうたっているというわけではないのですが(笑)。おかげさまでぴったりな名前だと言われています。

中西 本当におかげさまですね(笑)。


■3歳にして一句
歌枕 ところで、どのような環境でお育ちになり今の先生がいらっしゃるのか大変興味があるのですが。

中西 父が、素人俳人だったんですね。それで、家庭俳句会がありまして、3歳の時に詠んだ俳句が残ってるんですよ。

  「うめのきに すずめまいにち きてとまる」

歌枕 かわいいですね。「うぐいす」ではなくて「すずめ」。3歳にして俳人でいらしたのですね。では、いきなりですが先生の思春期はいつ頃ですか?(笑)。

中西 終戦の時十五歳で、青春とよべるのは学生時代でしょうか。大学のキャンパスに沈丁花があって、そのいい香りのする陽だまりで、友人達と文学論に熱中していましたよ。授業はなまけてましたがね(笑)。

歌枕 文学青年でいらしゃったんですね。先生のスケールの大きなものの見方はこの頃からお持ちだったのですか。

中西 書斎から引っ張り出してもらい、体で感じることを体験させて下さった久松先生やユーラシア全体の中で日本を考えるといういろんな話を聞かせて下さった土居先生などに出会い養って頂きました。

歌枕 どの時期に、どんな人に出会い影響を受けるかで、人生が変わりますね。

中西 よい師に恵まれたことが最大の幸せでしたね。


■第二次万葉ブームへ
歌枕 ふつうは、一般の人が万葉集の文献をひもといても、とても難しくてなかなか良さがわかりませんが、どう思われますか?

中西 まず文献から開放することが大切ですね。万葉集には、生きた人間の息づかい、かけがえのない一人に一回与えられた生命を生きたその人の声が残っているんですね。

歌枕 本当に生の声ですよね。一三〇〇年の時を越えても、歌った人の心を強く感じます。

中西 同時代的に共感を得てもらうことが大切。万葉集は、日本人だけでなく、世界共通の人間の心の故郷ですね。

歌枕 「人間の」という視点ですね。
先生は、最初大伴家持にひかれ、その後人麻呂、憶良へとひかれていったと拝見したのですが、それは何故でしょうか。

中西 家持はとても感性の豊かな人で、学生時代に興味を持ちましたね。年齢とともに人生の深さが増してくる。そうすると憶良。
万葉集は、人生全体を持っているんですね。この混然とした表現体であることに感動します。

歌枕 万葉集を歌っていると、その感動を体感することができるんです。ちなみに私の場合は歌おうとする前に、万葉が歌わせてくれているという感じがするんです(笑)。

中西 それはあなたの呼吸と、万葉集の呼吸とがぴったり合っているからですよ。万葉集を歌い続けてくださいね。そして、一緒に第二次万葉ブームを起こしましょう。

歌枕 はい。先生とでしたらどこまでも!(笑)。


中西 進 (なかにし すすむ)

1929年東京都生まれ。

東京大学文学部卒業後、同大学院に学び1963年文学博士。筑波大学教授、国際日本文化研究センター教授を経て、現在大阪女子大学学長。この間、プリンストン大学、北京・日本 学研究センター、トロント大学、カレル大学の客員教授を歴任。

古代文学の比較研究を主に、日本文学の全体像を視野におさめた研究、評論活動で知られる。

読売文学賞、日本学士院賞、大佛次郎賞、和辻哲郎文化賞ほか受賞。

主な著書に、『聖武天皇』(PHP新書)、『万葉時代の日本人』(潮ライブラリー)、『ことばの風景』(角川春樹事務所)、『日本人の愛の歴史』(角川選書)、『万葉集全訳注』全5巻(講談社文庫)、『日本人のこころ』(大修館書店)など多数。