歌枕直美友の会


うたまくら草子
歌枕直美の心から語りたい vol.8 木山 照道

約3年半前、「三輪山」の曲を創り、奉納演奏させていただいて以来ご縁を頂いている大神神社。新年号は木山宮司にご登場いただき色々な貴重なお話を伺わせていただきました。
「9/29 木山宮司がお亡くなりになられました。心よりお悔やみ申し上げます。」

■大神神社 平成の大造営
 
歌枕直美(以下歌枕)昨年9月の平成大造営・奉祝行事の際には、社頭において演奏させていただきまして、身に余る光栄と、心から感謝しています。
 
木山照道宮司(以下敬称略)花を添えていただいてありがとうございました。
 
歌枕:大神神社において歴史的な記念の時にお声をかけていただき、本当に嬉しかったです。
 
木山:信仰してくださる皆様のご協力を得て、現在ご覧になっていただける立派な造営ができました。これだけ三輪さんへの信仰が厚いのは、ここだけの独特の雰囲気があるからです。
 
歌枕:確かに一歩足を踏み入れるだけで外界とは空気が違うような気がします。
 
木山:春分・秋分の日には大和の真東から三輪山の真上に日が昇り、二上山に日が沈む。古代より三輪の巻向川から水が流れ、三輪山から太陽が昇る。生活の根源として大変ありがたいと、古くから今に至るまで、お参りされる方が多く、来られる人は必ず信仰をもっていらっしゃるんですね。
 
■「味酒 三輪の山」
 
歌枕:私はコンサートにおいて必ず「三輪山」を歌っています。特に奈良ではこの歌の反応がとても深いと感じます。きっとお客様が額田王の心と同じ「思い」で三輪山を愛おしんでおられるのでしょうね。
ところで万葉集では「味酒 三輪の山」と『味酒』が枕詞となっていますが、三輪さんとお酒との関係を教えていただけますでしょうか。
 
木山:崇神天皇が、この三輪に酒蔵を造られ、ここがお酒造りの中心だった。そういう歴史的事実をふまえて、枕詞ができているんですね。
大神神社はお酒の神様でもあり、毎年11月には酒まつりも行っていて「うま酒みわの舞」というお神楽も奏しています。
 
歌枕:その時に酒屋さんは、杉玉をいただくのですね。
 
木山:酒林、三輪林ともいって、本来、三輪山の神杉でつくるものですが、最近ではインテリアにもなっているようで、三輪さんのでないものもあるようです。(笑)
 
歌枕:確かに形がとても美しいですものね。(笑)
 
■心の原風景
 
木山:私は終戦をジャワ島のバンドンで迎え、その時これで日本は滅びた、自分の人生も終わったと思いました。
 
歌枕:そういう体験をされていらっしゃったのですね。
 
木山:その夜、空を見上げると南十字星が見え、1時間ぐらい見つめていると、学校の卒業式の時に伊勢神宮に雨の中をお参りした風景がさっと浮かんできて、死んではいけない、生きて頑張らないといけないと思うことができ、今があるんですよ。
 
歌枕:生と死の岐路に立たされたときに心に浮かんだ原風景が、宮司さんの運命を決めたのですね。
 
木山:神様を求める気持ちは、根本的には芸術に憧れをもつ気持ちと同じだと思うんですよ。それは自分の気持ちしだいで、やっぱり常に人をひきつけるものをもっていれば私はおなじだと思いますよ。歌枕さんにとって、この三輪山が心の原風景になって、いろんなところで歌っていってくださると大変すばらしいことと思います。
 
歌枕:貴重なお話をありがとうございました。21世紀も、より心をこめて歌い続けてゆきます。
 
 

木山 照道 (きやま てるみち)

大神神社宮司、神社本庁評議員、神宮評議員、奈良県神社庁庁長、(学)皇學館大學福理事長・國學院大學協議員、京都皇典講究所評議員、奈良古文化保存協会理事長。

大正10年生まれ。鳥取県出身。

神宮皇学館本科卒。

昭和17年、東楽々福神社・西楽々福神社社司。同30年、神社本庁主事。同31年靖国神社主典、同44年同禰官、同60年8月同権宮司を経て、平成2年11月、大神神社権宮司。同4年2月3日より現職。