セミナーレポート

調律・音合わせの秘密

調律は音を合わせることですが、単純に音程を合わすだけではありません。ピアノによっての違い、響きの違いを感じてピアノの音程を合わせる、調律という技の秘密に迫ります。

■ピアノの音は減衰するが、、、

一言でピアノの音といってもポーン、とかカーンなど言葉で言い表しにくいものです。最大の特徴としてピアノの音は言葉どおり、最初の音量から減衰するものということです。
 
他の楽器、ヴァイオリン、管楽器のように持続音の途中から大きくできる楽器もありますが、ピアノはそれができません。それではどのようにしてピアノの音を長く継続して響かせましょうか。その秘密が調律に隠されています。しかもこういうことのできる調律師、いわば熟練調律師はそうはいません。
 

■打音と余韻

ピアノの音は耳で聴きますが、それを目で見えるようにしました。マイクで音を拾い、その波形をコンピューターに映し出すのです。最初大きく鳴った音これが打音。それが数秒で急激にしぼみます。その後小さい音がずーと続きます。これが余韻。
 
そして、弦の振動はハンマーで叩かれる縦揺れだけではなく、横つまり水平方向にも揺れています。この原因はピアノのハンマーの表面の誤差、弦の張ってある状況の誤差などが大きく関係しています。これらをギッチリ調律してしまうと音の伸びがなくなってしまいます。

 

■3本の弦、これが最大のピアノの特徴

一つの音に3本の弦が張ってあるピアノ。こういう楽器はピアノ以外あまりありません。しかし、これらが微妙な誤差を生んでピアノならではの音色を作っていきます。
 
1本の弦の波形は、最初アタックで大きく膨らんで、急激にしぼんで行き、余韻も少ない状況です。これが複弦にになるとアタック後の余韻のふくらみが出てきて長く持つのです。
 
これはお互いの弦が駒を通して干渉しているからなのです。上手くふくらみが生じて余韻の幅を大きく、長くします。
 

■ピアノでもクレッシェンドができる!

面白い実験をしました。これは3本弦があるピアノならではの実験です。弦はお互いの振動の力を駒を通してやり取りしています。最初3本弦を叩いて音が余韻の状態になった時に、1本の弦の振動を止めます。すると止められた弦のエネルギーがまだ鳴っている弦に伝わり、止めた瞬間から鳴っている弦の音圧が上がり微妙ですが音が大きくなります。演奏中には難しいことですが、現代曲にはできるかも。

■ウナ・コルダの意味

左のペダルを踏むと鍵盤、アクション全体が右に動き、3本ある弦を2本ないし2本半叩くようになります。つまり音量と音色が変わります(グランドピアノ)。この開放された左の弦が大きな役割を果たします。
 

■ソフトペダルを踏んだときのほうが響きが良い!

ペダルを踏むと叩かれない弦は隣の弦の振動を拾い、じきに振動しだします。この振動の幅が最初から半位相の振動なので長く余韻が続きます。
 
つまりppで普通に弾いた時より、ソフトペダルを踏んでppで弾いた方が余韻の音圧があり膨らみがあるのです。
 

■余韻に膨らみを持たす調律

3本の弦の調律を微妙にずらすことにより、お互いの弦の干渉の幅を感じて、音色を感じて調律します。この作業は細心の注意を払っての調律ハンマー操作になります。

■調律師の技

ここで長年の経験と技術力でピアノを見極め、置かれている場所、演奏者、その他の条件を考え調律をします。 

■ピアノを生かすも殺すも調律師

最後にピアノの音色を作るのは演奏者ですが、その一歩手前の作業が調律師の仕事になります。ここでどれだけピアノを活かした、演奏者を活かした調律ができるかが勝負で、こういう視点で調律師は戦っています。
気持ちよく弾いていただく、これができなくは熟練とはいえません。

お越しいただいた方から感想をいただきました。

とてもわかりやすい説明でとても勉強になりました。実際に調律の体験もさせていただき貴重な体験となりました。目からウロコがたくさん出ました。楽しい時間をありがとうございました。(K.S)
 
自分はどっちかというとピアノは演奏することしか興味がありませんでした。が今回の調律についての説明を聞き、演奏と調律は深い関係があることを知りすごく勉強になりました。個人的な事なんですが、仕事や社会に関するお話もできこれからの自分について考えることもできたのは大変印象に残ってます。また機会があれば行きたいなと思っています。(M.I)
 
調律と言うのは単純に音と音のピッチを合わせるだけでない、あえてずらすのだということを知ってびっくりしました。楽器本体の持っている響きに調律師さんが魔法をかけ、より素晴らしくした響きに秘密が隠されていたんですね。(S.A)