セミナーレポート

ニューヨーク・スタインウェイの秘密

世界に2種類の性格のピアノを製造するスタインウェイ。ドイツ製、本家本元のアメリカ製。その違いも説明しながら修理中のニューヨークスタインウェイを見ていただきました。

■戦争で勝ったアメリカ、負けたドイツ

歴史的な話はいろんな書物やパンフレットにも載っていますが、戦後このメーカがとってきた対応の話が印象に残っています。戦時中はニューヨークの工場はグライダーを作っていたそうですが本土の影響がなかったため戦後も急ピッチで生産能力を上げていきます。

 
 
 
 

■合理化ゆえに採用されたもの

ピアノつくりに大事なものは何でしょうか。1960年頃まで労働者は自分たちの手でピアノを作るんだという自負心がありました。しかし、経営者との考えのずれなどからどんどんやる気をなくして終いには食べていくためだけにいやいや作っていたというのです。作る人の気力がなくなっていったピアノはどんなものでしょう。

■最新兵器

なるべくコストがかからず、簡単にそして後にクレームが発生しないものが理想です。そこで昔から採用されていたカシミヤ製の布の部品が65%が無駄になりコストがかかる素材ということで1962年にテフロンの素材に変更しました。この次の年からそこで雑音がするとクレームが発生してこの細かな部品1200個の中のどこから鳴っているかを探さなくてはならなくなったのです。 

■クレームを認めるか

クレームとなった部品を以前の否定したものに戻すことはできないということで20年間も放置されてきました。その間生産されたピアノは6万台。20年後にようやくこの選択は間違っていたと認めたのです。でもドイツではしっかりと検討されてこの部品の採用はありませんでした。国民性の違いでしょうか。信頼性によってハンブルク製が日本に輸入されてきた理由の一つと考えても良いでしょう。

 

■時代によってピアノは違う

今回より戦後のピアノ、しかもアメリカを取り上げたことでヨーロッパには見られない特徴が見えました。またその時代に作られた職人の気持ちがやはり反映されているものだと思いました。アメリカとドイツ、この性格の違う国で作られているピアノがある意味世界基準となっているのも考えさせられます。

■それでもアメリカの響き

小さいサイズのピアノなのに出てくる音はダイナミックなフルコンサイズ。これがスタインウェイなのでしょうか。ニューヨークスタインウェイの奥深さを知ったような気がします。

お越しいただいた方から感想をいただきました。

素晴らしい技術とセンスで新生されていくスタインウェイ。流石にヨーロッパで研鑽を積まれた荒木さん。真のピアノの響き 香りを 国内にも広げていってください。(Y .K)
 
同じメーカーのピアノでも時代によって考え方の違いや、工夫が変わって行くということですが、まさに今現在のピアノとは違う、試行錯誤中の時代を反映したピアノをみることができて、貴重な体験でした。興味深くおもしろかったです!特に日本ではとても有名なスタインウェイですが、なかなかその技術、知識、時代などの話を聞くことができるのは、長いキャリアを持っていらっしゃる荒木さんと、今このピアノがあるという条件がそろっているからだと思います。一時間では足りないくらい、楽しく充実した時間でした。また次回も期待しています!(A.O)