セミナーレポート

ベヒシュタインの秘密

戦前戦後と受け継がれているものとそうでないもの。そしてアップライトならではのベヒシュタイン・トーンの秘密にせまります。

■弾き手の個性を発揮できる

1853年創業以来、ベヒシュタイン社は弾き手そのものの意思を、正確に表現できる楽器を目指して製作されてきました。その1つが木のシーズニング、そして鉄骨を寝かす。これらは年単位で行われていた作業です。
 

■生産台数

創業時からの生産台数は現在、年平均1200台ですが、実は全盛期は1910年代で5000台も作られていました。戦争前の一番良い時期だったのです。戦中戦後と大打撃を受けましたが、伝えるべきものをしっかりと伝え製作し続けました。
現在は中小メーカーを買収して、そして中国でも生産されています。

 

■最大の特徴

ベヒシュタインの最大の特徴と言えば、高音、低音域を極端に強調せず、あらゆる音域をそれらしく表現する手段をとってきました。そのひとつの例がアグラフと言うもので、一つ一つの音の干渉を無くし独立した響きを純粋に響板に伝えています。現在のグランドピアノには採用されなくなってしまいました。

■時代でアクションが違う

戦前戦後のベヒシュタインがそろったところで、中の構造を見ていただきました。アクションも時代で変化していきました。
当時の製造場所です。
ランガー(ドイツ、ベルリン製)
シュワンダー(フランス、パリ製)
レンナー(ドイツ、シュトゥッツガルト製)
 
そして現在は上記の会社はピアノ同様コストダウンのためにその国から離れて、より安く作られる国で生産されています。

■長寿企業

先日NHKスペシャルで日本は長寿企業大国ということで放映されていました。200年以上続いている企業が世界トップの3000社。それに次いでドイツが800社。アメリカなどは14社しかありません。このベヒシュタインもこの200年に迫る長い歴史あるメーカーです。

■考え方は?

長寿企業の考え方は一般的に
1.長い目で考える
2.理念や家訓を継承する
3.創業時のサービスを守る
4.多角経営に関しては慎重
 

■温故知新で良いか

ベヒシュタイン社は当てはまるでしょうか。これからも創始者の考えが反映されていくピアノ作りを望まずにはいられません。

お越しいただいた方から感想をいただきました。

特徴である総アグラフやベース弦についてなど、さり気ないが意味がある部品や方式に驚きました。こちらのベヒシュタインを弾いた感想は真直ぐな音で自分の正面に飛んでくるイメージでした。また、一台一台丹念に作る職人の映像を観て、ピアノ作りに掛ける信念を感じました。今一度、ピアノ作りの原点を見直し、より良いものが生産されるようになれば良いなと思いました。(K.M)
 
鍵盤楽器が学校教育に取り上げられ、楽器の大量生産により音楽が誰でも楽しめるという事は本当にありがたい事だと思います。平成の手前で生まれた私にはテレビの無い生活や、ピアノが珍しい世界は考えられません。ですから、題材に取り上げられていたベヒシュタインのような名器が過去のものであり、今は作られにくいという事は、ピアノを弾く感性が浅く広くなって来ているのではないかと思いました。加速して行く世の流れの中で、芸術の感性というものが、どれほど人間に必要とされていくのか、これから試されていくのだなと思いました。(M.N)